May 11, 1998
東芝は、「ヘリカルスキャンX線CT装置の開発」の社会的貢献が認められ、4月28日、市村産業賞功績賞を受賞しました。同賞は、科学技術の進歩、地球環境保全、その他国民の福祉に関し技術上貢献し、優秀国産技術の育成に功績をあげた者に対して、三笠宮・凌堂ε族氏u・躡曚鯡海瓩蕕諱u觧埖失眞秩u・藺・蕕諱u覬浜世=u訃氈u任后」ヘリカルCT技術により、小さな病変の見落としが無くなり、撮影時間の短縮、高画質な3D画像の提供が可能となりました。1990年の北米放射線学会(RSNA)での発表以来のヘリカルCT技術の技術的功績、社会への貢献がみとめられました。
受賞者は、「ヘリカルスキャン方式」の開発者である森一生、荒舘博(ともに東芝の医用機器技術研究所)、東木裕介(開発当時CT技術部にてソフト開発を担当、現在東芝アメリカメディカルシステムズ社)の三名です。この技術は藤田保健衛生大学、福島県立医科大学、国立がんセンターのご指導・ご協力をいただきながら世界に先駆けて開発・実用化されたものです。
X線CTスキャナーは、X線を発生させるX線管とX線を検出する検出器を体軸の周りに360度回転させてX線透過データを収集し、そのデータをコンピュータ処理で人体の断層画像として再構成する装置です。 従来のCTスキャナーには、X線管等にケーブルを介して電力や信号の授受をしていたため、X線管と検出器を一回転させた後、ケーブルよじれを戻すために反対方向に一回転させる必要がありました。 この方法では撮影時間の短縮等、医師ら臨床側からの要望に応えるには限界がありました。
この点を解決したのが、85年発売のTCT-900Sのスリップリング技術でした。 導電性リング上を動くブラシを介して電力や信号を授受することで、ケーブルが不要となり、高速連続回転スキャンを可能としました。 TCT-900Sは、このスリップリング技術に加えて、大容量のX線管を搭載し、連続スキャンによって収集される大量・高速のデータを受け画像化するデータ処理部分には大容量メモリや並列運転の磁気ディスク、スーパーコンピュータ並みのイメージプロセッサを採用した装置で、のちのヘリカルスキャン実現のための基盤をすべて具備したものでした。
臨床面でも、TCT-900Sの連続回転スキャンにより、肝臓ガン、膵ガン、肺ガンの検査に有効なダイナミックCT撮影法が可能となったものの、次なるステップとして、短時間で連続した多断面の撮影が可能なCTスキャナーに対する期待が高まっていました。 そのために、スキャン中には被写体は静止していなかればならない、という当時のCT撮影での大原則を打ち破り、高速連続回転撮影中に寝台を連続スライドさせながらデータを収集し、新たに開発した画像再構成法によって高精細なイメージングを実現したのが、ヘリカルスキャンCTです。東芝はこのヘリカルスキャンCTの日・米・欧における特許を所有しています。
90年実用化されたこのヘリカルスキャンCTにより、患者の一回の息止めの間に肺や肝臓など広い範囲の撮影を短時間で、呼吸動の影響をうけず、見落としなく撮影することが可能となりました。患者のCT撮影時の負担・被曝が軽減され、また患者一人当たりの撮影時間が短縮されたことで一日当たりにより多くの患者の検査を行えるようになりました。 造影剤を使用した撮影においても複数の造影タイミングで臓器全体の断層像が得られ、少量の造影剤使用で腫鑑別別診断が容易に行えるメリットがあります。 さらにはデータが連続でかつ加工性が高いことから高精度の三次元画像表示が可能となりました。
ヘリカルスキャン方式は、現在では他社も追従し、販売されているCTの80%がヘリカルスキャン方式と、世界のCTスキャナーのスタンダードとなっています。 肺ガンのスクリーニング検診への応用等、今後もより広い分野への応用が注目される技術です。
東芝はヘリカルスキャン発表の後も、撮影とほぼ同時に画像をモニター表示するリアルタイムヘリカル、CT撮影中に穿刺の針先の位置を確認しながら生検(バイオプシー検査)を行うことが可能なCT透視法等、次々と新技術を世界に先駆けて開発・実用化し、世界のCTをリードしています。
今回の受賞に当たり、受賞者を代表して森は次のようにコメントしています。
「ヘリカルスキャンの開発の基盤となった高速スリップリングCT、TCT-900Sは、当時としては常識はずれの高性能装置で、それまでのCTの技術の延長では通用しない大開発となろうとしていました。 これほどの大開発をするからには、この装置でなければできないこと、つまりヘリカルスキャンをやがてはものにしたい、と思い、 TCT-900Sの開発の傍ら、ヘリカルのデータからどうやって正常な画像を再構成するかなどを検討して特許化しました。 しかし私はそれ以後ヘリカルスキャンには関わっていません。難産だったTCT-900Sの開発に精一杯でしたし、ヘリカルスキャンもいずれ使われるとは思っていましたが、今日の大を為すとまでは全く思っていなかったからです。 後にヘリカルスキャンの実際の開発は、その価値を見抜いた先端医療機関と荒館、東木らの技術陣とにより実にスムーズに行われました。 ご指導・ご協力をいただいた藤田保健衛生大学、福島県立医科大学、国立がんセンターの皆様を初め、TCT-900Sおよびヘリカルスキャンの開発・販売・サービス他に携わったすべての関係者に感謝します。」