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September 29, 1998

1回転あたり0.5秒でスキャンできる、世界最速のヘリカルスキャン方式 X線CT装置「Aquilion(アクィリオン)」の販売について

 (株)東芝は、従来比(*1)1.5倍のスピードに相当する1回転あたり0.5秒でスキャンできるヘリカルスキャン方式(*2)の全身用X線CT装置の最上位機種として「Aquilion(アクィリオン)」を商品化し、10月1日より販売を開始します。なお、販売は東芝メディカル株式会社が行います。

 スキャンスピードを向上したことで、一般的な胸部検査において、従来2回必要であった患者の息止めが1回で済むなど(フル撮影で30cm領域を15秒でスキャン可能)検査効率が大幅に向上します。また、1回転0.5秒のスピードを実現したことで、心拍の拡張時を狙ってスキャンすることができるため、従来難しかった心臓、循環器領域でのX線CT装置の利用が可能になりました。

 0.5秒の高速スキャンを実現するためには、高速化による架台の振動や従来比2倍以上である13Gに達する遠心力への対応、スキャン時間の短縮化に伴うX線照射量不足などの課題がありました。

 新製品では、架台回転機構に振動・騒音を最小限に抑えるリニアモーター式ダイレクトドライブ方式を採用することで、安定した高速回転を実現しているほか、遠心力に対しては、X線を照射するX線管球やX線発生器(ジェネレータ)など複数のキーコンポーネンツを改良することで、耐圧性能を向上させています。また、世界最大出力の60kWのジェネレータと世界最大の冷却効率1,386kHU/分のX線管球を新たに開発し、X線照射量を補うと共に広範囲に及ぶ連続・繰り返しスキャンを可能としました。

 なお、新製品は、当社が開発した最先端の「マルチスライスヘリカルCT技術」(*3)に対応できるよう、基本システム設計がなされています。ユーザーの要望により、将来アップグレード対応が可能です。
 新製品の販売価格は、標準構成で定価6億円です。また、国内市場と同時に海外市場へも新製品を投入し、年間で300台の販売を予定しています。

*1:当社製の上位機種であるヘリカルCT「Xvigor/Laudator」。1回転あたり0.75秒。
*2:ヘリカルスキャン方式
 X線管の連続回転照射と寝台の連続スライドの組み合わせで、体軸方向に沿ってらせん状に撮影データを連続収集するスキャン方式。1断層撮影ごとに寝台をずらして間欠的に撮影データを収集する従来CT撮影方式に比べ、臓器全体などの広範囲を高速に撮影できます。

*3:マルチスライスヘリカルCT技術
 広範囲な領域を短時間で撮影するため、1回転のスキャンで複数の断層像を得られるようにしたCT撮影方式。当社が開発を終えた技術は、1回転のスキャンで4断層像が得られ、0.5秒の高速スキャン技術と組み合わせることで、現在主流の1秒CTとの比較で8倍、今回発表する0.5秒の新製品と比較した場合でも4倍のスピードを実現できます。

開発の背景と狙い

 ヘリカルCTは、広範囲な領域を短時間で撮影できるため、肺ガンのスクリーニングとしても応用されるなど、CT診断技術とCT検査の効率化は飛躍的に向上しました。より短時間で撮影し、かつ、診断能と検査効率を向上するために、スキャン時間も1回転1秒から、最近では1回転0.75秒へと高速化が図られています。今般、1回転0.5秒のCTスキャンを実現したことで、従来難しかった心臓、循環器領域でのX線CT装置の利用を可能とします。
 当社は現在、国内のX線CT装置市場で約5割のシェアを確保しており(当社調べ)、今後とも積極的な技術開発をすすめ、さらなる診断性能の向上を目指していきます。

世界最速CT「Aquilion」の新技術

 当社は、1回転0.5秒の高速回転技術、高速回転に伴う遠心力への対応技術、世界最大出力60kWのX線発生器、世界最大冷却効率1,368kHU/分のX線管球を開発し、0.5秒の超高速スキャンを実現しました。また、13Gもの遠心力に耐えるため、架台回転機構に新たに開発した振動・騒音を最小限に抑えるリニアモーター式ダイレクトドライブを採用し、回転部に取り付けるX線管球には世界で初めて回転ターゲット両端支持ベアリング技術を導入しました。また、X線発生器(ジェネレータ)も従来のオイルトランスタイプからソリッドタイプの積層構造を採用し、高速回転時でも安定して高電圧を供給できるようになりました。容積も従来機種*1の1/9にまでコンパクト化し回転機構への負担を軽減しました。さらに、患者に威圧感を与えない新デザインの丸型ガントリー(架台)には、原子力やタービンに応用されている熱処理技術を取り入れ、ガントリー内の効率的な排熱処理を実現しています。

 また、画像再構成時間も世界最速の0.5秒を実現するとともに、リアルタイム画像再構成では1秒間に12画像のレート(0.083秒再構成)で画像再構成が可能です。さらに従来の最小1mmのスライス厚を0.8mmまで薄くすることができます。これにより、広範囲を、より短時間で、より精密に撮影でき、効率良く診断することができます。

  1. 1回の息止めで検査が終了
     胸部検査では患者の息止め1回(30cm領域を15秒、スクリーニング目的なら8秒)で撮影が終了します。高速画像再構成により、撮影の終了とほぼ同時に診断も完了でき、すぐさま患者の解放ができます。また必要と判断されれば、その場ですぐCT透視(*4)(オプション)下で穿刺術あるいはインターベンション術(*5)を施行できます。また、従来では患者が再度病院を訪問し再検査をする必要がありましたが、初回検査での診断精度が上がることで、再検査の必要性が少なくなります。従来のCT検査の概念を一新する装置です。

    *4:CT透視方式
     CTのリアルタイム画像再構成技術を応用した術式。従来型X線透視術式と同じセンスで、CTリアルタイム画像下で穿刺術、インターベンション術が施行でます。さらに、CT透視下で最小侵襲性治療(Minimally Invasive Treatment)が試みられています。
    *5:インターベンション術
     外科手術を行わずに経皮的に治療する術式。X線アンジオやCTスキャナーなどの画像診断装置を利用し、体表から血管にカテーテルを挿入し狭窄した血管を再開通させたり、体表からチューブを通じ肝腫瘍内にエタノールを注入し患部を治療したりします。切開をせずに治療が行える為、患者への負担が少なくて済むメリットがあります。
  2. 心臓・循環器領域等の新しい臨床応用
     新製品は、1回転0.5秒のスキャンスピードを実現したことで、心臓、循環器領域への新たな臨床応用が可能です。また、0.3秒のハーフスキャンが利用できます。0.3秒という極短時間になると、従来CTでは体動の影響を直接受けていた心臓近辺の画質も鮮明です。
  3. より侵襲性の少ないCTアンギオ
     頭部検査では、患者にとって、侵襲性の少ない経静脈でのCTアンギオ(血管造影検査)がより高い診断能で施行できます。頭部CTアンギオは対象となる血管が造影剤で造影されるベストタイミングを捉え極短時間で撮影する必要があります。新製品では超高速スキャン技術と0.8mmスライス並びにリアルタイム画像再構成技術により、ベストタイミングで、より短時間に、より精密に血管構造を撮影でき、例えば従来のCTでは困難であった小さな動脈瘤の診断に有力となります。これにより、従来型X線アンギオ撮影をせずに、患者にとってより侵襲性の少ないCTアンギオ検査で手術に向けての判断を行うケースがますます増えてくるものと期待されます。
  4. 患者被曝を低減
     侵襲性の少ない術式で、より快適かつ短時間で検査を行うことができます。患者のX線被曝も侵襲の一つと捉え、最小のX線被曝で高い画像診断能を実現する技術を開発しました。新規開発のX線フィルターにより人体に吸収され易い低エネルギーX線を積極的にカットしています。高速スキャンと低被曝で、小児領域への応用に有効です。
  5. CT検査の質の向上
     0.5秒スキャンによる時間分解能の向上に伴い体動アーチファクトは軽減され、息止めの困難な患者や小児、救急患者に対してもクリアな画像を提供できます。X線出力も最大500mAまでサポートしていますので、ほぼ全ての検査に対し0.5秒スキャンを適用できます。さらに、CTによる臨床の適用範囲を大きく左右してきた管球性能も世界初の陽極接地方式を採用する事により、最大冷却効率1386kHU/分と世界最高仕様を実現。熱の発生抑制と冷却効率向上という両面の効果を生み、容量は従来管球での10MHU以上に相当します。それに従いほとんどのルーチン検査で待ち時間が不要となり、高速回転での広範囲連続撮影及び繰り返し撮影が可能ですので、腹部の連続造影検査、救急時の広範囲撮影、薄いスライス厚での広範囲頭部CTアンギオなど、従来、管球性能に起因していた臨床上での限界を打破すると共に、待ち時間のない快適なオペレーションを実現します。
  6. 今日の病院経営、医療サービス環境に最適
     新製品は全く新しい操作性を採用しました。設計時に「人間の直感性」を十分研究することで、誰でも操作が的確に行えるグラフィック・ユーザ・インタフェースを開発。これにより、高級機にもかかわらず、普及機並みの操作性を実現。そしてわずか3コンポーネントの構成で、設置はいたって容易。また病院内のネットワークにも最大に応えられるよう、DICOMでのコネクティビティをフルサポートしています。
     検査・治療の効率化に加え、病院内の管理体系にも十分応えられるシステム設計になっています。

以上