【特集】乳腺画像診断の今

キヤノンメディカルシステムズ
最新トモシンセシス搭載マンモグラフィ装置の使用経験と今後の期待

後藤 由香 様
聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージング先端医療センター附属クリニック
Key Words:◉国内メーカ乳房トモシンセシス装置 ◉コンパクト設計 ◉逐次近似法 ◉ノンビニング方式


乳房トモシンセシス(Digital Breast Tomosynthesis:DBT)装置は複数メーカから販売されているが、それぞれ“推し”があり、それらを理解した上でその特性を最大限活用するのがわれわれ、臨床側の責務である。キヤノンメディカルシステムズから販売されたDBT機能搭載マンモグラフィ装置Pe・ru・ru LaPlusの“推し”は、撮る側にも撮られる側にも配慮された国内メーカならではの細やかな技術である。その辺りを中心に、放射線技師の立場からPe・ru・ru LaPlusを紹介する。

はじめに

乳房トモシンセシス(Digital Breast Tomosyn-thesis:DBT)は通常の2Dマンモグラフィ(Mammography:MG)の弱点である“組織の重なり”を補う技術として登場した。欧米では10年以上前から大規模なDBTを用いたstudyが数多く行われ、MG単独よりもMGにDBTを上乗せすることで要生検率、癌検出率、浸潤癌検出率の観点から有効性が高いことが報告されている1、2)。本邦ではBan3)らにより、日本人を対象とした任意型乳がん検診においても、DBTを上乗せすることで偽陽性が減少するなど、その効果が証明された。
本稿では2020年11月に当施設に導入したキヤノンメディカルシステムズのDBT搭載装置Pe・ru・ru LaPlusの特徴を当施設での運用を交えながら紹介する。

当施設でのLaPlus運用

当施設では2016年度からDBTを用いた任意型乳がん検診を行っているが、当時はDBT撮影が可能な装置は一台しかなかったため、診療と検診で装置を兼用していた。その後、2020年11月にDBT機能を搭載したLaPlusを導入したことをきっかけに、元々、別階に一部屋だけ設けていた超音波検査室の隣にLaPlusを設置することで、検診を診療から切り離した独立した運用が可能となった。そうすることで、同じ待合に混在していた診療患者と検診受診者の動線を切り分け、さらにMG終了後、すぐ隣で超音波検査を受診できるため、移動も少なく無駄のない導線へと移行できた。

ポジショニングと装置管理のしやすさ

筆者は以前から長年、キヤノンメディカルシステムズのPe・ru・ruシリーズを使用している。LaPlusの撮影コンソール画面(図1)は日本語表記でわかりやすく、従来のPe・ru・ruシリーズと同じようなデザインである。DBTはCアームが回転しながら撮影するため、他メーカは装置本体の軸が大きく(太く)設計されており、またDBTに対応するタイミングで大きなFPDを採用している。その点、LaPlusは従来のPe・ru・ruシリーズとほぼ同じ大きさであるため、小さな検査室でも圧迫感なく設置でき、操作、およびポジショニングに関しても、まったくと言っていいほど苦慮することはなかった(図2)。曝射後、次の撮影に移行するときには、手元に設置された自動回転スイッチ(図3)を押すことで速やかにCアームが回転するため、スループットが向上し、また左右方向のボタンを押す手間も省略できる。曝射後に次の曝射が可能となるまでのサイクルタイムも約11秒と短く、ポジショニングをした後に曝射をするために装置の準備を待つ時間は実質ない。そしてフットスイッチの操作性が非常に良く、わずかに動かしたい時も1mm単位で調整可能である。MLO撮影時には被験者の腕を撮影台に乗せるが、被験者の腕の形状に自然と沿うフォルムに設計されており、力が自然と抜ける構造になっている。このように術者がポジショニングしやすいようにと細やかな気配りが随所に見られる。
また直接変換方式のFPDを使用しているにもかかわらず、電源投入後およそ5分で撮影可能になり、また24時間FPDの通電も不要であることから、ランニングコストを低く抑えることができる。FPDの温度管理幅も26〜36℃と広く、検査室温をおおよそ22〜30℃と「被験者が快適」と感じる温度に設定できる。外観も柔らかな印象を与える構造を取り入れており、被験者も最小限のストレスで検査を受けることができる。

LaPlusの線量と画質

LaPlusはDBTの画像再構成に逐次近似法を採用している。逐次近似法の詳細はここでは割愛するが、これによりノイズが少なくなり、低線量での撮影が可能となる4)。特に乳がん検診においては利益(救命効果)と被ばくの不利益を考慮しなければならず5)、低線量で撮影する意義は診療以上に大きい。実際に当施設に設置されたLaPlusで40mm厚のPMMA PhantomをFull-Auto ModeでDBT撮影した装置表示の平均乳腺線量は1.10mGyであり、2020年に出されたDBTの診断参考レベル(DRLs2020)6)である1.5mGyと比較すると低値に抑えられているのがわかる。
LaPlusのDBTの画質は1スライス内のほぼすべての構造物にピントが合っており、病変を極端に強調して描出するというより、繊細に線構造や腫瘤境界を描出し、細かな評価ができる印象である。導入当初はその柔らかな画像処理にやや物足りなさを感じたが、メーカと議論しながら画質の改良を重ね、現在では繊細ながらも病変がはっきり認識できる画質となった。またLaPlusは通常の2DとDBTの分解能は同じ85μm(ノンビニング方式)であるため、図4に示すように2DのMGで描出されている淡い石灰化がDBTでも同様の形状として認識でき、かつ石灰化の信号が強調されることで視認性は非常に良好である。
日本人乳房は欧米人と比較し、乳房厚が薄く、高濃度乳房の割合が高いことで知られている7)。 LaPlusは国内メーカとして日本人女性に合わせた画質をコンセプトに、図5に示すように20mm厚と薄い乳房でも低線量を維持しながら、画像処理により高鮮鋭度の画質を維持できている。先に記述したように当施設ではLaPlusを主に乳がん検診に使用しているが、診療において薄い乳房患者のDBT依頼があった場合には、LaPlusを使用して撮影するようにしている。

超音波検査とDBT

当施設ではMGと超音波を併用した任意型乳がん検診に総合判定方式を導入しており、MG終了後にMG撮影した技師がすぐにMGビューワで技師読影をして、そのレポートを参照して超音波検査を行っている。MGと超音波の検査室をすぐ隣に設置したことで、レポートでは伝えきれない情報のやり取りをすぐに行うことができ、コミュニケーションがとてもとりやすくなった。「超音波検査を行う被験者に対するDBT上乗せの効果はどの程度か?」と質問されることは多いが、やはり超音波検査のデメリットである視野の狭さと、術者の技量により左右される客観性と再現性を補うことであり、通常のMGでは指摘できなかった病変を、DBTを撮影することで指摘できる点であると思う。図6に示す症例は通常のMGでは指摘できないが、DBTを撮影することで3つの構築の乱れがあることがわかる。構築の乱れはMGにおける診断用語であり、正常な乳腺構築の歪みを検出する必要があるため、超音波検査のみで検出することは難しいとされている。提示した症例では複数の構築の乱れの所見があるという情報を元に超音波検査を行ったことで、正しく拾い上げることができている。DBTにより病変の位置情報がより正確に把握できるようになり、またDBTでしか指摘できない所見もあるため、超音波検査の質の向上にDBTが一役を担っていると言える。

LaPlusの課題

現在、DBTの新技術としてDBTによる2重被ばくの問題を克服するためにDBT撮影で得られたデータを再構成し、一枚の2DのMGを作成する「合成2DMG」がすでに複数メーカから販売され、運用されている。しかしLaPlusは本邦でDBT装置が各メーカから販売されること数年遅れて登場したこともあり、未だ合成2DMGの開発には至っていない。もちろん本邦ではDBTが単独で保険収載されていないこともあり、通常診療の場合にMGを省略したDBT+合成2DMGによる運用はできないが、任意型検診であれば被ばく線量の観点から合成2DMGへの移行の期待は高い。合成2DMGはその特徴的な画質から、読影の際に慣れが必要と言われている8)。LaPlusの繊細で細かな評価ができる画質の特性を持った、読影しやすい合成2DMGの開発を期待している。
またDBTは診断による恩恵もあるが、DBTを用いたMGガイド下生検は深さ方向の情報と病変の視認性の高さからステレオガイド下生検と比較すると、ターゲティングがしやすく、検査時間短縮と精度向上に寄与する9)と言われている。しかしLaPlusは現時点では生検に未対応である。撮影コンソール画面は日本語で見やすく、国内メーカならではの細かな表示もされていることから、操作性の高い生検対応装置の開発を是非お願いしたい。

おわりに

施設にとって医療機器には値段、画質、業務効率、快適な操作性、安全性、安心したアフターケアなど、さまざまな要望がある。DBT 装置は複数メーカから販売されており、それぞれ特徴がある。その特徴を理解し、生かし、また不便や要望はメーカとともに改善し、進歩していかなければならない。一番のユーザはわれわれ医療者ではなく、患者であり検診の受診者である。ユーザに優しい装置を目指すメーカとともに、われわれ臨床側も努力を続けていきたいと思う。

参考文献
1) Skaane Per et al: Comparison of digital mammography alone and digital mammography plus tomosynthesis in a population-based screening program. Radiology 267(1): 47-56, 2013
2) Friedewald SM et al: Breast cancer screening using tomosynthesis in combination with digital mammography. Jama 311(24): 2499-2507, 2014
3) Ban Kanako et al: Breast cancer screening using digital breast tomosynthesis compared to digital mammography alone for Japanese women. Breast Cancer 28(2): 459-464, 2021
4) 阿久津拓光 : 7 . 臨床応用(5)–トモシンセシスの画像再構成-FBP 法, 逐次近似法–. 日本放射線技術学会雑誌 70(11): 1360-1366, 2014
5)(編)日本乳癌学会: 乳癌診療ガイドライン2018 年版 ②疫学・診断編. 総説1 乳がんマンモグラフィ検診の被曝 . 金原出版 172-175, 2018
6) 医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME):日本の診断参考レベル(2020 年版). http://www.radher.jp/J-RIME/ report/JapanDRL2020_jp.pdf(Access.11. Sep.2022)
7) 西出裕子: 日本人女性の乳房におけるマンモグラフィの撮影条件と被曝線量の評価. https://nagoya.repo.nii.ac.jp/ records/25057#. Yx8wGi33K3k(Access.11.Sep.2022)
8) 古谷悠子ほか:合成2Dマンモグラフィの診断能の検証 –Full-Field Digital Mammographyとの比較 –. 日本乳癌検診学会31(2): 195-202, 2022
9) Schrading Simone et al: Digital breast tomosynthesis– guided vacuum-assisted breast biopsy: initial experiences and comparison with prone stereotactic vacuum-assisted biopsy. Radiology 274(3): 654-662, 2015


トモシンセシス機能搭載マンモグラフィ装置Pe•ru•ru LaPlusの特長

石川 瑠奈 様
キヤノンメディカルシステムズ株式会社 X線営業部
Key Words:◉乳房X線撮影装置 ◉ソフトコピー診断 ◉トモシンセシス ◉逐次近似再構成


DBT(Digital Breast Tomosynthesis)は、乳腺の重なりを分離し、腫瘤の辺縁や構築の乱れなどの線構造を鮮鋭化することで、所見の同定を容易にし、悪性かどうかの確信度を向上させることが期待されている。キヤノンメディカルシステムズ株式会社製トモシンセシス搭載マンモグラフィ装置Pe・ru・ru LaPlusは、コンパクトに設計された撮影台によりポジショニングのしやすさはそのままに、トモシンセシス撮影を可能にした装置である。さらに、新たな画像処理パラメータにより、ソフトコピー診断に適した2D画像、また低被ばく・高精細なトモシンセシス画像を提供する。

はじめに

トモシンセシス(Tomosynthesis)とは、X線管球を移動させながら複数の角度から撮影し、再構成によって断層像を作成する技術である。歯科や整形など、さまざまな領域の画像診断で用いられているが、乳腺画像診断領域においては2021年4月に発刊された『マンモグラフィガイドライン第4版』に「トモシンセシス」の項目が新設された。ガイドラインでは、トモシンセシス画像の特長や読影方法について解説されており、トモシンセシス画像の利点として、腫瘤におけるスピキュラなどの辺縁を鮮明に描出することが挙げられている。さらに、構築の乱れなどの線構造を鮮鋭化することで、所見の同定を容易にし、さらには悪性かどうかの確信度の向上に貢献することが期待されている。
キヤノンメディカルシステムズは、トモシンセシス搭載マンモグラフィ装置Pe・ru・ru LaPlus販売当初から、画質改善を続けてきた。本稿では、Pe・ru・ru LaPlusの特長と最新の画像処理について紹介する(図1)。

Pe・ru・ru LaPlusについて

キヤノンメディカルシステムズのデジタルマンモグラフィ装置Pe・ru・ruは、「受診者・操作者への“優しさ”」をコンセプトに、女性スタッフが中心となって開発してきた。受診者に安心して検査を受けていただくため、体に触る部分は機械的な冷たさを感じさせない素材を使用し、さらに、柔らかな印象を与えるラウンドフォルムを装置全体に取り入れている。また、日本人女性の体形に合わせてコンパクトに撮影台を設計しており、ポジショニングのしやすさが特長である。
Pe・ru・ru LaPlusは、従来のPe・ru・ruシリーズで高く評価をいただいたポジショニングのしやすさはそのままに、トモシンセシス機能を搭載している。多くのマンモグラフィ装置が、トモシンセシス対応に伴って大きなサイズのFPDを採用しているのに対し、Pe・ru・ru LaPlusはCRと同等サイズのコンパクトなFPD(約17×24cm)を採用している。コンパクトな撮影台のサイズにこだわる理由は、マンモグラフィの画質において装置の画像処理と同じく、ポジショニングが重要な因子だと考えているためである。
2017年11月に改訂された「デジタルマンモグラフィ品質管理マニュアル第2版」には、「ポジショニングの重要性」という項目が追加されている。日本乳がん検診精度管理中央機構が実施している施設画像評価においても、ポジショニングの配点が高くなっていることから、現在のソフトコピー診断においてポジショニングが、より一層重要視されていることがわかる。
また、ポジショニングのテキストなどでは、CRサイズの撮影台を基準にポジショニングの方法が解説されている。CR同等サイズのFPDを搭載しているPe・ru・ru LaPlusでは、従来から行われている方法に則ってポジショニングを行うことができる。また、MLO(内外斜位方向)撮影時には、撮影台が大きい場合、受診者に肩を高く上げてもらうこともあるが、Pe・ru・ru LaPlusではその必要がない。さらに、腹部と撮影台の干渉も少ないため、受診者の負担を軽減する。
Pe・ru・ru LaPlusは、画像処理技術だけではなく、ポジショニングのしやすさという面でも、より最適なマンモグラフィ画像を提供する。

ソフトコピー診断に最適な通常撮影(2D)画像処理パラメータCharmer

マンモグラフィの基本となる通常撮影(以下2D)の画質について、最新のトレンドを求めて改良を続けてきた。時代とともに変化してきた読影環境に合わせ、ソフトコピー診断に適した画像処理パラメータCharmer(シャルメ)を紹介する(図2)。
1) 画像処理パラメータCharmerの背景
デジタルマンモグラフィ装置と高精細モニタは、従来の高輝度シャウカステンを使用したフィルム読影の置き換えとして登場した。高精細モニタによるソフトコピー診断は、アナログフィルムと高輝度シャウカステンが作り出す高いコントラストの画像に対し、モニタ輝度が限られているため、コントラストの表現力が不足している。Pe・ru・ruは販売当初、フィルムライクな画作りを基本としていたため、ソフトコピー診断においては初期表示のコントラストがやや弱かった。そこで、画像処理パラメータを一から検討し、ソフトコピー診断においても初期表示で高いコントラストを実現する画像処理パラメータCharmerが完成した。
2) Pe・ru・ruの画像処理
Pe・ru・ruは、オートウィンドウ処理に加え、f-ProcとDCFという特徴的な画像処理を搭載している。オートウィンドウは、ウィンドウ調整を自動で行うことで、適切な明るさとコントラストを表示する。f-Procは複数の周波数帯域を強調する機能であり、乳腺構造や石灰化の形状にメリハリを与える。DCFはダイナミックレンジ圧縮の機能であり、乳腺内のコントラストは保ったまま、高線量域の黒つぶれや低線量域の白つぶれしてしまう領域の視認性を補正する。
3) ソフトコピー診断に最適な画像処理パラメータCharmer
Charmerは、乳腺内コントラストの向上を第一のコンセプトとし、従来の画像処理パラメータを一新した。オートウィンドウはWWの決め方を変更し、乳腺内にコントラストが合うように最適化した。これにより、乳腺内コントラストが向上した。f-Procは周波数帯域を見直すことで、鮮鋭性を向上した。さらに、乳房厚に合わせて処理の強さを変更することで、乳房厚によらず、安定した画質を提供する。また、乳腺内に合わせたオートウィンドウの変更によって暗くなってしまう乳腺外は、DCFを調整することで視認性を向上した。オートウィンドウとDCFのバランスによって、最適な乳腺内コントラストと乳腺外コントラストを両立しているこれらすべてのパラメータの最適化により、乳腺内・乳腺外コントラストの向上、さらに鮮鋭性を向上し、Charmerはソフトコピー診断における読影環境に適した画質を提供する。

低線量・高画質を実現するトモシンセシス技術

Pe・ru・ru LaPlusのトモシンセシスは、2D同等の低線量撮影でありながら、高精細かつコントラストが高い画像であることが特長である。これらを実現するさまざまな技術を紹介する。
1) ターゲット/フィルタ
マンモグラフィは、正常乳腺組織と病変組織のX線吸収差がきわめて小さい。そのため、従来のマンモグラフィ装置は、低エネルギー領域に特性X線を発生する性質を持つMo(モリブデン)ターゲットを用いることが一般的であった。また、MoターゲットのX線スペクトルに合わせ、付加フィルタはMo、Rh(ロジウム)が使用されてきた。
Pe・ru・ru LaPlusは、トモシンセシス撮影を実現するため、連続した短時間照射が可能なW(タングステン)ターゲットを採用している。また、付加フィルタは従来と同じRhフィルタと、一般的なX線撮影装置にも使用されているA(lアルミ)フィルタ、そしてAg(銀)フィルタの3種類を搭載している。Agフィルタは、Rhフィルタよりも高エネルギー領域を抽出し、Alよりも高エネルギー領域を適切にカットするため、WターゲットとAgフィルタの組み合わせは画質と被ばくのバランスに優れている。Pe・ru・ru LaPlusは、Auto撮影において、乳房厚に応じてフィルタが切り替わるが、主な乳房厚においてAgフィルタを採用している。
2) 撮影方法
撮影の振り角は±7.5度、17回の連続撮影を行う。振り角は、大きくなるほど厚み方向の情報を分離できる一方で、X線の斜入角度が深くなり、多くの照射線量が必要となる。また、振り角を大きくすると、大きなFPD入射面を必要とするため、Pe・ru・ru LaPlusでは、コンパクトな撮影台に適した振り角±7.5度を採用した。限られた振り角においても、逐次近似再構成法を使用することで、厚み方向のアーチファクトを最小限に抑えている。
また、2Dとトモシンセシスを1度の圧迫で連続して撮影する方式では、2Dを先に撮影している。これにより、万が一撮影を中断した場合にも、読影に不可欠である2D画像は最低限得ることができる。
3) 投影データの取得
投影データの収集は、2Dと同じピクセル85μmのピクセルサイズで行うノンビニング方式を採用している(図3)。データ容量が大きくなるトモシンセシスでは、データ容量の圧縮やSN比向上を目的として、周囲のピクセルをまとめて収集するビニング方式が用いられる場合がある。しかし、ビニング方式の場合、再構成後のピクセルサイズが大きくなるため鮮鋭性が低下してしまうというデメリットがある。Pe・ru・ru LaPlusはコンパクトなFPDを使用しているため、大きなFPDに比べてデータ容量が小さい。さらにさまざまなノイズ低減処理を組み合わせることによって、ノンビニング方式でデータを収集しながらも、高精細なトモシンセシス画像を作り出す。
さらに、ノンビニング方式は読影時にもメリットがある。トモシンセシスの読影は、2Dと並べて評価することが基本となるため、2Dと同じピクセルサイズの場合、ピクセル等倍や拡大表示などを行った際にも2Dとの比較が行いやすい。
4) ノイズ低減を考慮した逐次近似再構成
一般的にトモシンセシスで用いられる再構成には、FBP法(Filter Back Projection法)と逐次近似再構成法がある。FBP法は高速な再構成が可能な一方で、多くの投影画像が必要であること、また、焦点面以外の構造の映り込みが大きいというデメリットがある。一方で、逐次近似再構成法は少ない投影画像での再構成が可能で、焦点面以外の映り込みを抑制できることに加え、ノイズ低減処理等を加えられる柔軟性がある。Pe・ru・ru LaPlusでは、振り角の限られた撮影において、乳腺の重なりを効果的に分離するため、逐次近似再構成法を用いている。さらには、ノイズを考慮した計算を行うことで、低線量でのトモシンセシス撮影を実現している。

Pe・ru・ru LaPlusトモシンセシス画像の特長

Pe・ru・ru LaPlusは、高精細に取得した投影データに対し、逐次近似再構成でスライスデータを作成し、さらにf-Procをかけることで、鮮鋭性が高いトモシンセシス画像を作成する。鮮鋭性の高い画像は、トモシンセシス画像に求められる腫瘤の辺縁や構築の乱れの線構造をより評価しやすくする。
また、トモシンセシス画像は1mm厚のスライスで表示するため、一般的に2D画像に比べて1スライス内の濃度分解能は低下する。しかし、組織間のX線吸収差が小さいマンモグラフィ領域では、わずかな濃度の差が病変の視認性において重要であると考えている。そのため、Pe・ru・ru LaPlusのトモシンセシス画像は、1スライス内の濃度分解能を向上することを目指している。再構成後のスライス画像に適したオートウィンドウとf-Procにより、乳腺の重なりを分離しつつ、1スライス内の濃度分解能を高め、病変の視認性向上に貢献している。また、スライス内のコントラストの向上は、2D画像とトモシンセシス画像の比較における大きな違和感を低減する(図4)。

おわりに

キヤノンメディカルシステムズは、国内メーカとして、国内の乳腺画像診断におけるニーズやトレンドに合わせて装置改善を行ってきた。今後も、より多くの女性に乳がん検診を受けていただくことを目指し、操作者・受診者に優しい装置へさらなる進化を続けていく。

※Charmerの由来:フランス語で「魅了する」との意味。新しい画像処理で、長年愛され続けているPe・ru・ruを、さらに輝かせたいという思いを込めている。

参考文献
1)(公社)日本医学放射線学会 /(公社)日本放射線技術学会編:マンモグラフィガイドライン第4版.東京,医学書院,2021
2) NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構編:デジタルマンモグラフィ品質管理マニュアル第2版.東京,医学書院,2017

一般的名称 販売名 認証番号
据置型デジタル式乳房用X線診断装置 乳房X線撮影装置 MGU-1000D MAMMOREX Pe・ru・ru DIGITAL 224ADBZX00109000