技術レポート

3rd Harmonic Imaging

Aplio i-series / Prism Editionに搭載された「3rd Harmonic Imaging(以下、3-HI)」は、アーチファクトの少ないクリアな画像を求める声に応える新しい映像化技術である。本稿では、3-HIが高画質を生む原理について技術的な解説をする。

■はじめに

キヤノンメディカルシステムズ株式会社は、1966年に初めて超音波診断装置を発売して以来、50年以上に渡り数多くの革新技術によって、超音波診断の発展、臨床価値の向上に貢献してきた。2004年に発表したDifferential Tissue Harmonic Imaging(以下、D-THI)は2周波を混合した送信を行い、発生する差音と2次高調波を効果的に干渉させることで、従来は映像化できなかった深部の組織を高解像度で画像化する技術である。このように培われてきたハーモニックイメージング技術を、さらに発展させるために開発されたのが3-HIである。
 3-HIは3つの要素技術によって実現している。コアとなるのが3次高調波を活用する新ハーモニックイメージング技術であり、Aplio i-series / Prism Editionで強化された送受信・信号処理アーキテクチャであるiBeam+と、人工知能(Artificial Intelligent、以下、AI)技術によって支えられている。

■高画質を生む新ハーモニックイメージング技術

プローブから送信された超音波パルスは、生体中を伝播する過程で波形が歪む。この波形歪は高調波の発生を表しており、送信周波数の逓倍の成分が生じている。従来のティシュハーモニックイメージングでは2倍の周波数成分である2次高調波を抽出し、映像化しているのに対し、3-HIでは3倍の周波数成分である3次高調波を利用している。
 高調波の発生は音波の振幅に依存する。高次高調波であるほどその依存性が強いため、送信波と同じ周波数成分である基本波よりも2次高調波の方が、2次高調波よりも3次高調波の方が、より振幅の高い超音波ビームの中心近くに集中して発生する(図1)。また3倍の周波数成分、つまり高い周波数成分で画像化することと、高い振幅依存性は、多重反射エコーを相対的に減弱させることにつながり、多重アーチファクトを低減する。
 3次高調波の場合でも差音・和音を活用することは可能であり、従来のD-THIが2周波送信の内の低周波側の2次高調波成分と差音成分で画像を構成するのに対し、3-HIでは3次高調波、2次高調波、差音・和音と様々な成分を用いて画像を構成する(図2)。このようにプローブ帯域の低域から高域まで満遍なく信号を発生させ、画像にすることにより、距離分解能と、3次高調波だけでは減衰により犠牲となる深部感度を可能な限り高めることができる。
 以上のような物理的な性質により、3-HIでは高空間分解能、高コントラスト、低アーチファクトな画像を得ることが可能になる(図3)。

図1 高調波の発生と振幅依存性
ハーモニックイメージングで利用される高調波は超音波の伝播の過程で自然に発生する。
生じる高調波の強度は振幅の大きさに依存し、高次の高調波ほど振幅依存性が強いため、 超音波ビームの中心付近に集中する。

図2 D-THIにおける映像化高調波成分(上)と3-HIにおける映像化高調波成分(下)
D-THIではf1の2次高調波とf2-f1の差音成分を映像化するが、3-THIでは加えてf1の3次高調波や2f1+f2の和音成分等、より多くの成分を映像化する。

図3 ファントムでの画像例 (左)D-THI、(右)3-HI
空間分解能が向上している。

■3-HIを支える映像技術「iBeam+」とAI技術

高画質が期待できる3次高調波成分は非常に弱い成分であることが映像化する上での課題であった。ビーム中心の最も高調波が発生している部分であっても、2次高調波が基本波の-10 dB程度の振幅であるのに対し、3次高調波では-20 dB程度の振幅でしかない。そのため3次高調波を映像化するためには効率的に抽出する必要がある。
 Aplio i-seriesに搭載された送受信・信号処理アーキテクチャであるiBeamは、Aplio i-series / Prism Editionで新開発された信号処理ハードウェアと高性能プロセッサ(CPU/GPU)によってiBeam+へと進化した。iBeam+は受信信号の同時処理数がさらに増大し、得られる複数の受信ビームを重ね合わせることで、鋭く均質性の高いビームが形成される。受信ビームの加算により3次高調波を含むエコー信号全体の信号強度が増大させることで、拾い上げる対象を引き上げる役割をiBeam+は担っている。
 受信エコーの中には基本波、2次高調波、3次高調波…と、様々な成分が含まれており、これらを効果的に活用するためには、まずそれぞれの成分に分離・抽出する必要がある。しかし、各成分は周波数軸上で重なる部分を持つため、所望の周波数成分を取り出すための従来の周波数フィルタでは各高調波成分を区別することができず、帯域特性が犠牲になる。特に3次高調波成分は前述の通り微弱なため他の成分に埋もれやすい。
 そこで3-HIでは、AI技術の一種であるDeep Learningを開発段階で用いて設計されたフィルタによって3次高調波成分を選択的に抽出している。Deep Learningモデルである畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、以下、CNN)への入出力は、多重解像度でのフィルタ係数の畳み込み演算と等価と考えることができ、従来の周波数フィルタとそのまま置き換えて処理することが可能である。超音波スキャンや信号処理を工夫し、時間をかけて理想的な手段で抽出したピュアな3次高調波信号を教師データとしてCNNの学習を行うことにより、3次高調波を含むエコー信号から3次高調波のみを効率良く取り出すことが可能になる。(3次高調波信号の効果的な映像化を実現した3-HIの臨床画像を図4に示す。)"

図4 胆嚢底部の画像例(データご提供:飯田市立病院 岡庭信司先生)
(左)D-THI、(右)3-HI。多重アーチファクトが抑制されている。

■まとめ

3-HIは超音波画像に対してAI技術を適用し、高画質化を図った初めての機能である。画像に対してではなく超音波信号に対するAI処理をリアルタイムで実現しており、これを3次高調波映像法と組み合わせることで、今までにない画像を提供する先進的な機能となっている。今後も、3-HIの臨床価値を高めるための改善に併せて、革新的な映像化技術とAI技術を以て医療の発展に寄与する機能の開発を目指していく。

※ Altivityはキヤノンメディカルシステムズ株式会社のAIソリューションブランドです。
※ 本資料内のAIという表現は設計段階でAI技術を用いたことであり、お客様の検査、診断においてAI学習する機能ではありません。