肝診療における新しい超音波診断装置の有用性

岩手医科大学附属病院

近年、肝疾患領域では食生活の欧米化や肥満人口の増加を背景に脂肪性肝疾患が台頭し、その早期診断や経過観察における超音波診断装置の有用性が注目されている。
そこで、本領域に造詣の深い岩手医科大学消化器内科特任教授の黒田英克先生に、脂肪性肝疾患を早期診断する意義、ならびに新しい超音波診断装置Aplio meの有用性について解説いただいた。
岩手医科大学消化器内科特任教授 黒田 英克 先生

ウイルス性肝疾患に代わり増加する脂肪肝とリスク

肝疾患は国民病のひとつに数えられるが、その内容は時代とともに様変わりしている。かつて頻度が高かったウイルス性肝疾患は治療の劇的な進歩により患者数が減少し1)、近年、脂肪性肝疾患(以下、脂肪肝)が世界的に増加しており、我が国においても食生活の欧米化や肥満人口の増加を背景に現在最も頻度の高い肝疾患となっている2)。脂肪肝はアルコールの過剰摂取によるアルコール性脂肪肝とメタボリックな背景を持つ非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)に分類されるが、NAFLDの我が国の有病率は25%と報告されており3)、脂肪肝の増加はNAFLDの増加によるところが大きい。NAFLDの1~2割は肝硬変や肝癌に至る可能性のある進行性の非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)であり、比較的良好な経過をたどる単純性脂肪肝とは区別して分類されている1)

欧米発、脂肪肝の新たな分類と名称変更

2023年、欧州肝臓学会は、米国肝臓病学会やラテンアメリカ肝疾患研究協会と合同で、脂肪性肝疾患(fatty liver disease)をsteatotic liver disease(SLD)と総称し、従来のNAFLD、NASHはメタボリック症候群の基準の一部を満たす場合に限定してmetabolic dysfunction associated steatotic liver disease(MASLD)、metabolic dysfunction associated steatohepatitis(MASH)と代謝性の背景を示す名称に変更することを発表した4)。アルコール性肝疾患はalcoholassociated (alcohol-related) liver disease(ALD)となり、“alcoholic”が使用されなくなった。飲酒量がアルコール性肝疾患とNAFLDの中間でメタボリック症候群の基準の一部を満たす場合はMetALD,NAFLDでメタボリック症候群の基準の何れも満たさない場合はcryptogenic SLD、薬物性やWilson病などに起因する場合はspecific aetiology SLDと変更される4)

脂肪肝のリスクと早期発見の意義

脂肪肝は肝の炎症や線維化を惹起し、肝硬変から肝癌へと至る端緒となる可能性がある。また脂肪肝の存在は肝臓の線維化進展自体を早め、糖尿病・肥満症・脂質異常症などの代謝性疾患や高血圧症などを伴うことも多く、死亡リスクが上昇することも報告されている5)。これまで我が国において主な肝細胞癌の原因はC型肝炎であったが、現在は、脂肪肝を基礎疾患とする癌が増加しており2)、脂肪肝を早期発見する重要性がクローズアップされている。

奈良宣言―ALT>30で脂肪肝を早期発見・早期治療へ6)

脂肪肝の症状はなかなか現れない。このため無自覚・無症状のまま潜在し、知らないうちに脂肪肝炎に進行し、肝硬変への移行を待たず肝細胞癌が見つかる場合もある。そのため脂肪肝の早期発見には一般の健診受診を勧奨すると同時に、肥満・糖尿病・高血圧症などのメタボリック症候群に該当するハイリスク例ではかかりつけ医への相談や専門施設での検査実施が重要になる。
2023年、日本肝臓学会は、脂肪肝をはじめとする肝疾患の早期発見に向け「奈良宣言」を発表した。これは一般的な健診で肝機能検査として血液検査で広く測定されているALT値を指標とし、ALT>30(IU/L)であればかかりつけ医等への受診を勧奨するもので、かかりつけ医と専門医の診療連携による早期発見・早期治療の実現を目的としている6)

脂肪肝の診断

脂肪肝は、肝細胞の5%以上に大滴性の脂肪滴を認める場合と定義される1,2)。脂肪肝の診断は除外診断が基本であり、ウイルス性肝疾患、薬物性肝疾患や自己免疫性肝疾患などを除外するための各抗原抗体の有無や薬物服用歴、自己免疫疾患の罹病歴などの聞き込みや検査に続いて画像もしくは組織学的に肝臓の脂肪化を証明する。侵襲性が高い肝生検は、合併症リスク、標本間誤差、検査者間の評価格差の可能性があるため7)、近年は画像診断が主流になってきている。
脂肪肝の画像診断には超音波、CT、MRI(MRI-proton density fat fraction; MRI-PDFF)の3種類がある。MRI-PDFFは精度が最も高いとされるが高額で検査時間が長く、特殊な装置のため予約が取りにくいなどのデメリットがある。CTは被曝を避けられず、侵襲性が高い。それに対し、超音波は安価で検査が繰り返し可能であり、患者さんの負担がほとんどなく短時間で終了できるといった利点がある。このため健診など脂肪肝発見の第一線において中心的役割を担っており、臨床での有用性が高い。

肝脂肪化を定性的に評価するAttenuation Imaging(ATI)

超音波の振幅は生体内を伝播するにつれ指数的に減衰するが、脂肪肝では正常肝よりも振幅の減衰が大きくなる。近年、超音波による脂肪肝の拾い上げにはこれを利用した減衰法が用いられるようになってきた8)。脂肪肝の超音波診断基準に関する小委員会がまとめた『脂肪肝の超音波診断基準』では肝脂肪化の定量手段としてこの減衰法が採用されており、手法のひとつとしてキヤノンメディカルシステムズ社製の超音波診断装置Aplio i-seriesに搭載されたATIが挙げられている8-10)
ATIはボタンを数回押すだけで短時間に脂肪量が高精度に推定でき、健診のような場で脂肪肝を効率よく拾い上げることが可能である。超音波の汎用プローブで検査が行えるなど利便性が高く、検査者の再現性にも優れている。検査実施までのトレーニングも比較的短期間で済むため、検査者を選ばず敷居の低い、かつ高精度なアプリケーションといえる。脂肪肝と診断される脂肪量は目視で確認できるレベルではなく、国内外の学会や学術誌などでATIを評価する報告が集積しつつある昨今、脂肪肝の診断に有用なATIは今後一気に普及していくものと予想される。

肝線維化の評価―脂肪肝の予後予測

脂肪肝を拾い上げた後に重要となるのは、個々の脂肪肝患者の予後リスク評価である。肝臓に線維化が生じると、肝硬変や肝癌へと進行するリスクが高まるだけでなく、脳出血、心筋梗塞、狭心症などの脳心血管イベントの発生率が増加し、さらに悪性腫瘍の発症リスクも上昇することが知られている2)。特に、線維化が中等度に達した時点から合併症による死亡率は顕著に増加し、肝機能の悪化が進行することで肝硬変へと移行し、さらにはイベント発症率がさらに上昇する2)。したがって、適切なフォローアップを行うためには、線維化の進行状況を正確に把握し、高リスク患者を見極めることが不可欠である。

新たな超音波診断装置Aplio meの肝診療における有用性

ハイエンド装置Aplio i-seriesのATIを用いて測定した減衰係数は、MRI-PDFFやFibro-Scan®に搭載されたcontrolled attenuation parameter(CAP)の測定結果、肝生検所見と良好な相関を示す10-12)。しかし、広く脂肪肝を拾い上げていくために今求められているのはこうした大学病院などでの使用を意図した装置に加え、健診現場やクリニックなどの日常臨床に導入しやすい、リーズナブルで使い勝手の良い装置であろう。そこで、コンパクトな筐体にハイエンドな機能を備えた最新機種Aplio meの肝診療における有用性を検討した。
Aplio meは、肝脂肪化を定性的に評価するATIに加え、肝線維化の測定に有用な高機能アプリケーションであるShare wave Elastography(SWE)も搭載可能である。SWEは、超音波から発せられるプッシュパルスが生体肝に到達した際に生成されるせん断波の速度を測定し、肝線維化を評価する技術である。肝臓の線維化が進行し硬化するにつれ、せん断波の速度が上昇することが知られている。Aplio meは、肝脂肪化および肝線維化の両者を評価することが可能であり、脂肪肝の進行状況およびリスクの有無を高精度で推定するための信頼性の高いデータを提供する。この装置は、専門医への紹介、治療介入の決定、次の検査計画など、脂肪肝診療における包括的な医療判断を一台で行うことを可能にする。Aplio meはそのコンパクトな設計にもかかわらず操作性が非常に優れていることが確認された。ボタンの配置や操作のスピード感も、ハイエンド装置と同等の感触を提供し、医療従事者にとって使いやすいデザインとなっている。これにより、日常臨床においても効率的かつ正確な診断が可能であり、肝疾患の早期発見および管理に大いに貢献すると思われる。
Aplio meのBモード像
Aplio meのBモード画像は、非常に高画質であることが特徴であり、Wide View機能を用いることで広範囲の視野を提供し、全体像を俯瞰的に観察することが可能である(図1)。視野角が115°と広く設定されているため、一度のスキャンで多量の情報を収集できる点が優れており、複数の臓器を同時に観察することが可能である。この広視野角は、診断の迅速化を図るとともに、解剖学的評価の精度を高めることに寄与している。さらに、ズーム機能を用いることで、特定の病変や構造物の詳細な観察が可能となり、臨床のニーズに応じた画像の調整が自在に行える点も重要である。
図1 Bモード(脂肪肝、Aplio me):黒田英克先生 提供
Aplio meのATI
Aplio meのATIは一般的な腹部超音波検査が実施できれば容易に撮影可能であり、初心者と熟練者で測定値に著しい差異が生じることはない。また、関心領域が非常に広く、一度にある程度の範囲を検査できる利点がある。関心領域を変更するには、トラックボールを回転させ、意図した位置で直感的に停止するだけで容易に行える。さらに、関心領域内に含まれる血管などの構造物は、自動的に除外されるアルゴリズムが組まれており、ボタン操作のみで迅速かつ簡便に減衰量の推定が可能である。
色彩による視覚的なフィードバックとして、濃いブルーからオレンジへのカラーマップは値の減衰の程度を示しており、減衰の程度が色によっても直感的に分かりやすく感じられるようデザインされている(図2)。
図2 ATI(Aplio me):黒田英克先生 提供
Aplio meのSWE
Aplio meのSWE機能はAplio i-seriesと比べても遜色なく、図3のように画質も良好で、Aplio i-seriesと同様に短時間で効率よく測定可能であった。アルゴリズムも同じで、これまでのノウハウやデータのカットオフ値などを生かして臨床と直結して活用できるようになっている。図3にあるピンクの円は関心領域を示すもので、左の測定画面の関心領域内のせん断波の速度が計測されており、右にはせん断波が伝播する様子が表示されている。測定画面の赤い格子は、せん断波がよく伝播し信頼性をもって計測できていることを示し、計測がうまく行われていることが一目瞭然である。画像の下にはせん断波の速度が表示されている。
図3 SWE(Aplio me):黒田英克先生 提供
Aplio meのATI・SWE―Aplio i-seriesとの高い相関性
次にAplio meに搭載されたATIとSWEの測定結果と、ハイエンドシリーズであるAplio i-seriesとの相関性に関する検討結果を紹介する(図4)。当院において、慢性肝疾患60例の症例に対してAplio meおよびAplio i-seriesを用いたATI測定値の回帰分析を実施したところ、両者の測定値には非常に高い相関が認められた(R2=0.83、p<0.01、図4左)。さらに、59例を対象としたSWE測定値についても、Aplio i-seriesとの間で極めて高い相関性が確認された(R2=0.9361、p<0.01、図4右)。
続いて、Aplio meとAplio i-seriesのATI測定値についてBland-Altman解析を行った。双方のデータの平均値を横軸、差を縦軸としてプロットしたところ、多くが誤差範囲内(LOA)でありデータの一致性が可視的に確認された(図5左)。SWE測定値についても同様で、バイアスは0に近く、系統誤差も認めないことから双方の検査結果に高い一致性があることが可視的に確認された(図5右)。
図4 Aplio meのATI・SWE測定値 Aplio i-seriesとの比較(回帰分析):黒田英克先生 提供
図4 Aplio meのATI・SWE測定値 Aplio i-seriesとの比較(回帰分析):黒田英克先生 提供
図5 Aplio meのATI・SWE測定値 Aplio i-seriesとの比較(Bland-Altman解析):黒田英克先生 提供
図5 Aplio meのATI・SWE測定値 Aplio i-seriesとの比較(Bland-Altman解析):黒田英克先生 提供

Aplio meは増加する脂肪肝の診断・治療を一台でこなす解決策

以上のように、Aplio meはコンパクトな設計とリーズナブルな価格でありながら、高画質およびハイエンドなアプリケーションを搭載している。これにより、クリニックや健診センターなどの施設においても、増加している脂肪肝の診断および治療を簡便かつ高精度に行うための有力なソリューションとなり得る。
さらに、ATIやSWEの測定値はMini Report機能を使用して、過去と現在のトレンドグラフとして表示したり、レーダーチャートで視覚化することが可能である。これにより、「もっと痩せなくてはいけない」といったメッセージを数値のみならずグラフとして効果的に患者に伝えることができ、患者指導においても有用である。このような視覚的フィードバックは、患者の理解を深め、治療へのモチベーションを向上させるための強力なツールとなる。

脂肪肝診療―今後の展望

奈良宣言の発表により、ALTが30 IU/Lを超える場合、開業医から専門医へのコンサルトが適切とされる時代が到来した。脂肪肝が疑われる場合、Aplio meを循環器専門医が導入することで、心エコーで使用していたプローブを変更するだけで腹部の診察も可能となり、脂肪肝の評価を通じて診察の質を一層向上させることができるであろう。脂肪肝のフォローアップに関しては、特に脂肪化や線維化が疑われる症例においては、半年に一回の超音波検査、もしくは体重の変動を認めた際に検査を実施することが推奨される。肝疾患が多様化する中で、脂肪肝は新たに中心的な疾患として浮上し、その評価、リスクの層別化、診断および治療の重要性は今後さらに高まることが予想される。肝臓の専門医だけでなく、循環器や糖尿病など脂肪肝の合併が多い疾患の診療にあたる医師にとっても、ボタンひとつで簡単に脂肪肝を発見し線維化を評価できるAplio meのように、精度のよい安価な装置が望まれていると考える。
黒田先生とスタッフの皆様

参考文献
1 ) 日本肝臓学会編 NASH・NAFLD の診療ガイド 2015、文光堂
2 ) 日本消化器病学会・日本肝臓学会 NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)、南江堂
3 ) Ito T, et al. Hepatol Int. 2021; 15(2): 366-379
4 ) Rinella ME, et al. NAFLD Nomenclature consensus group. J Hepatol. 2023; 79(6): 1542-1556
5 ) Simon TG, et al. Gut. 2021; 70(7): 1375-1382
6 ) 第59回日本肝臓学会総会 奈良宣言特設サイト https://site2.convention.co.jp/jsh59/nara_sengen/iryou.html
7 ) Rockey DC, et al. Hepatology. 2009; 49(3): 1017-1044
8 ) 脂肪肝の超音波診断基準に関する小委員会 脂肪肝の超音波診断基準 2021年1月22日公示
9 ) Tada T, et al. Ultrasound Med Biol. 2019; 45(10): 2679-2687
10) 飯島尋子、他. 肝臓 2018; 59(1): 65-67
11) Ferraioli G, et al. Clin Transl Gastroenterol. 2019; 10(10): e00081
12) Tada T, et al. Ultrasound Med Biol. 2019; 45(10): 2679-2687

*記事内容におけるコメントや数値については、お話を伺った黒田先生のご意見・ご感想が含まれます。

一般的名称 販売名 認証番号
汎用超音波画像診断装置 超音波診断装置 Aplio me CUS-AME00 305ADBZX00027000