整形外科領域における超音波診断装置の活用

わだ整形外科クリニック 院長
和田 誠 先生
整形外科領域における超音波診断装置(エコー)の活用は、診断、治療、さらにはリハビリテーションまで広がりを見せている。本稿では、エコーを積極的に活用するわだ整形外科クリニックの和田誠氏にその有用性などについて伺った。

整形外科領域におけるエコーの重要性

和田氏は2004年に大阪府枚方市でわだ整形外科クリニックを開業し、スポーツ整形外科を始めとした先進的な整形外科診療を行っている。和田氏がエコーを使い始め、その有用性を感じたのは注射の時だったという。「最初はなんとなくからエコーを使い始めました。15年前に購入した装置では、肉離れにおいては血腫が存在することが判断できる程度で、あまり綺麗に見えませんでした。それが技術の改良により細かな損傷、構造の変化まで見えるようになり、近い将来に治療が大きく変わっていくことを肌で感じました。また、膝の関節注射でもエコーを見ずにブラインドで行うことが一般的でしたが、実際エコーで確認すると薬液が関節内に入っていないことを多く経験しました。他にも肩峰下滑液包の注射もエコーが登場する前から薬液が入っていないという論文がたくさん出ていました。エコーを使用するメリットは、薬液を患部に正確にデリバーするという点もありますが、最も大切なことは治療を行いながら病態を確認できるということです。目標とした場所に薬液が入っても効かない場合は、別の病態を考えなければならないし、今まで漠然としていた五十肩の病態など徐々に明らかになっていくと考えます。同じ五十肩でも一人ひとり病態が違う面白さを日常診療で感じており、五十肩の成因もいくつかのパターンがあると思っています。運動器エコーライフを楽しんでいます。」

エコーとMRIで肉離れの診断・治療に挑む

同クリニックは肉離れの診断・治療に注力している。一般的に肉離れの診断にはMRIを用いることが多いが、和田氏はエコーも活用している。「今まで肉離れ、靭帯、腱などの軟部組織損傷は、徒手検査で圧痛があるかで判断していました。しかし深いところになるとどこに圧痛があるかわかりにくく、構造がどのようになっているのか確認しようと思うと、患者さんにMRIを撮りに行ってもらっていました。ですが今はエコーの画像分解能が高くなったのでエコーで見るようにしています。また、MRIは斜めに切ることが弱いです。例えば、ハムストリングの最も肉離れの好発しやすい近位共同腱部の損傷は評価がとても大切ですが、筋腱移行部は腱組織と筋線維の走行が斜めに走行していることもあり、詳細に構造を確認することはMRIでは難しいです。そのためプローブを 3 次元的に動かすことのできるエコーはとても有用です。」
さらに、和田氏は今後エコーをMRIと併用していくべきだと強調する。「復帰を考えた治療プランを立てる上で、損傷している部分がどの筋組織の一部であり、どのような働きをする筋なのか、どういう動作で再発しやすいかなど考慮する必要があります。それがエコーだと細かく判断できます。今後は MRI 検査だけでなくエコーでも見ないといけない時代になってくると思います。」
a
b

図2 上腕筋の筋腹部の肉離れ
a: MRI画像 b: Bモード画像

ハイエンド超音波診断装置が整形外科領域の診療に貢献

エコーを使用した診療には多くのメリットがある。和田氏は、「エコーを使用することで患者さんに画像を示しながら説明ができるので、説得力があります。特にトップアスリートになればなるほど早期復帰をしたいため無理をしてしまうことがあるのですが、画像を見せることで復帰してもよい状態なのかそうでないのかわかるためブレーキもかけやすいです。」と語る。また、エコーがあることで理学療法士とのコミュニケーションも取りやすくなったという。「当クリニックは、医師5分、理学療法士20分でしっかりとエコーで病態を把握して、治していくことを心掛けています。例えば、痛みがある部分にハイドロリリースをして症状が落ち着くと、そこが病態だったということは画像を見るとすぐにわかります。そして理学療法士に説明すると理学療法士は、そこに癒着やアンカリングを起こさないような施術をします。エコーの画像を見ることで病態の説明など伝達しやすくなりました。」
同クリニックではキヤノンメディカルシステムズのハイエンド機種であるAplio i700 / Prism Editionを活用して診療を行っている。和田氏はAplio i700 / Prism Editionについて、「画質そのものが良いですね。特にハイエンドの装置だと深いところが鮮明に見えますし、Full Focusもできるので毎回フォーカスを合わせなくても全体にフォーカスがあってくれるので良いです。」と語る。
また、診療には主にリニアプローブのPLI-1205BXとPLI-605BXを使用しているという。「基本的には PLI-1205BX で見ますが、ハムストリングなど深い部位の肉離れや梨状筋症候群の坐骨神経評価、深部に針先を誘導したりする際にはPLI-605BXを使用しています。また、深度は浅くても足底腱膜炎などエコーが減衰しそうなところはより周波数の低いプローブのほうがしっかりと見えるので PLI-605BX を使います。」また最近は骨盤内の神経も見るという。「骨盤内の神経を評価する際は、最初はコンベックスプローブから見ます。やはりコンベックスプローブは深い組織を全体的に把握することに優れていますが、神経など細かいところは見えにくいです。コンベックスプローブで脊椎や腹腔内の腸管、骨盤内の子宮などの位置関係を確認します。脊柱管内のヘルニアの確認や椎間孔からの神経根を描出する際は、腸管をよけた後にPLI-605BX に持ち変えます。背側からプローブをあてても見えにくい場合は、腹側からアプローチすることで見えることがよくあります。」

診療を変えるSMIとSmart Fusion

Aplio i-series / Prism Editionには様々なアプリケーションが搭載されているが、中でも和田氏は診療を変えた機能として低流速の血流を描出できる技術Superb Micro-vascular Imaging (SMI)を挙げている。「SMI はドップラーのスケールを下げてもノイズを拾わないので、流速の遅い血流の評価にとても有用だと思います。径の小さな末梢神経のハイドロリリースの際は、神経を描出することが困難であり伴走する動脈で判断します。難治性の腱障害などでは、病態の判断にSMIが有効な場合が多く、腱組織へ迷入する新生血管の流入路にスクレ―ピングを行う場合や周囲の炎症性滑液包にステロイドを注入する場合に有効です。血流がにじむことも少ないのでインターベンションの際に針先をピンポイントにターゲットに誘導することができます。また、肉離れの治療においては、損傷した軟部組織をSMIで経時的に評価することにより、治癒過程を把握できるだけでなく新たな損傷(再発)の判断も行っています。」
その他にもSmart Fusionの有用性について評価している。Smart Fusionはスキャンしているエコー画像とCT/MRI画像をリファレンス画像として表示するアプリケーションである。「Smart Fusionの強みは、MRIとエコー画像を対比させて見ることができるところです。なぜ対比させることが重要かというと、 エコーで弱いところとMRIで弱いところが両方補完できるからです。エコーは質的なところがわかりにくいです。例えば、腱に連続性が出ていても腱の強度はわかりません。連続性はエコーで評価して、強度はMRIのインテンシティの変化で見ていきます。どのように厚みが変わっているのか、またリモデリングの時期をきちんと評価しようと思うと、MRIが大事です。 MRIが弱いところは、構造がしっかりと見られないところですが、Smart Fusionだとプローブを動かして3次元的にもMRIが評価できるようになります。また損傷している部分の経過観察が大事です。エコーだけだとマーキングしたところを評価しようとしても経時的に治って腫れも引いていくので、形態が変わってしまい場所がわからなくなることがあります。しかしMRIが横にあることで、損傷部位を確認しながら経時的にしっかりと形態学的な変化も捉えられますし、そこにSMIを併用するとリモデリングして治っていく過程で場所も特定できて、再現性が上がります。」

今後の運動器エコー

最後に和田氏は今後の整形外科領域、特に肉離れのエコーの役割について、「スポーツによる怪我や障害の大半は、軟部組織損傷です。そして国際的にみてもその評価や分類は MRI であることが多いのが現状です。肉離れを例に考えますと、腱断裂、筋腱移行部断裂、筋内腱損傷、筋膜損傷、筋内筋線維断裂に分けて評価分類されます。しかし、損傷している腱が二つの筋に共有されている共同腱である場合、ストレスが集中します。また、筋線維の構造が羽状筋や紡錘状筋でもストレスのかかり方が違います。今後はエコーの進化により、ますます詳細な評価が可能となることが考えられます。MRIとのDATA集積でどの筋のどの部分の損傷であるかを考慮して復帰時期の決定が行えるようになるとよいですね。とても楽しみです。」とメッセージを寄せた。

※記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

一般的名称 汎用超音波画像診断装置
販売名 超音波診断装置 Aplio i700 TUS-AI700
認証番号 228ABBZX00022000
一般的名称 手持型体外式超音波診断用プローブ
販売名 リニア式電子スキャンプローブ i18LX5 PLI-1205BX
認証番号 228ABBZX00025000
一般的名称 手持型体外式超音波診断用プローブ
販売名 リニア式電子スキャンプローブ  i9LX2 PLI-605BX
認証番号 302ABBZX00045000