トモシンセシス機能を搭載したマンモグラフィ(FFDM)Pe・ru・ru LaPlus

トモシンセシスの全例実施により見逃しのない確実な診断をめざす

高松平和病院

乳がんは近年、増加の一途をたどり、日本人女性では11人に1人が罹患する。
死亡率も増加し続け、30〜60歳代の女性の死因では1位であり、検診による早期発見・早期治療の重要性が叫ばれている。
2011年4月、高松平和病院が乳腺外科を開設。四国初の女性乳腺専門医である何森亜由美医師をはじめ、スタッフ全員女性での診療を開始した。
2018年5月には、キヤノンメディカルシステムズのマンモグラフィ(FFDM)「Pe・ru・ru LaPlus for Tomosynthesis」を導入。
マンモグラフィ、超音波、MRIと複数のモダリティを駆使した総合判定を行っている。
Breast Solution 第1回目の今回、何森医師にトモシンセシスの使用経験、評価を中心に取材した。

四国初の女性乳腺専門医として乳腺外科を開設

香川県が誇る国の特別名勝「栗林公園」のほど近く、香川医療生活協同組合が運営する高松平和病院は7つの診療科を有し、1日平均外来患者数は約180人(2017年実績)、ベッド数123床の働く人々のための病院である。
2011年4月、同院に乳腺外科が開設された。四国初の女性乳腺専門医である何森(いずもり)亜由美医師を筆頭に、診療放射線技師3名、超音波検査技師2名、看護師2名、受付スタッフ1名、計9名のスタッフ全員女性という、受診者に優しい環境で診療にあたっている。
何森医師は、出産・育児を機に消化器外科医から乳腺外科医に転身。 高松市内の乳腺専門クリニックで臨床経験を積み、2010年からはがん研有明病院乳腺センター外科の医員(2011~2015年非常勤)としても研鑽を重ね、乳腺超音波診断を極めた乳がん診療のエキスパートである。
乳腺外科は完全予約制で、何森医師の診療は火・水・木の午前中、スクリーニングは月・水の午後がマンモグラフィ+超音波、火・水・木の午前中がマンモグラフィのみとなっている。 2016年からは、スクリーニングのマンモグラフィと超音波はそれぞれ専門技師が検査し、後日、何森医師が読影する方法で実施している。

Pe・ru・ru LaPlusを導入、トモシンセシスを全例で実施

乳腺外科では2011年の開設時に、キヤノンメディカルシステムズ(当時は東芝メディカルシステムズ)の超音波診断装置「Aplio 500」を導入し、最近では「Aplio i800」も使用している。 そして、2018年5月、マンモグラフィ装置を最新のトモシンセシス機能対応「Pe・ru・ru LaPlus」に更新した。 2017年に導入された同社の1.5テスラ装置「Vantage Elan」も加えて、マンモグラフィ、超音波、MRIを活用した総合画像診断を行っている。
対策型検診、企業健診や任意型検診などのスクリーニングはマンモグラフィが基本であり、オプションで超音波検査を併用している。 一般外来受診者は、自覚症状のある人、精査(他院からの紹介含む)、フォローアップなど、さまざまである。 最初にマンモグラフィを撮影し、その画像を見ながら超音波検査を行い、がんが疑われる病変が見つかった場合はその日のうちに超音波ガイド下のインターベンションを実施する。 MRIは、術前の精査(副病変の検索)、広がり診断をはじめ、マンモグラフィや超音波検査で確定診断にまで至らなかった患者などが対象となる。MRIでのみ検出された病変については、セカンドルック超音波で確認し、aspiration biopsyも行って診断を確定する。
Pe・ru・ru LaPlusが導入された2018年5月以降、マンモグラフィは全例、従来の2Dに加えて3Dマンモグラフィのトモシンセシスを実施している。Pe・ru・ruシリーズは、直接変換方式FPD搭載でピクセルサイズ85μm、受診者に優しいフォルムが特徴のFFDMである。Pe・ru・ru LaPlusのトシンセシスは、回転角度±7.5°、17回スキャンで断層像を再構成する。断面をめくるようにスクロールしながら観察可能で、z軸(厚み方向)の情報を加えた乳腺の重なりが少ない断層像により、視覚的にわかりやすく観察することができる。 また、逐次近似法を用いた画像再構成により、トモシンセシスで懸念される被ばくの低減と高画質なトモシンセシス画像の両立を実現している。
2D+トモシンセシスの撮影時間は、1回の圧迫の連続撮影(コンボモード)で約20秒間。 2Dのみに比べて乳房の圧迫時間は長くなるが、Pe・ru・ru LaPlusはフェイスガードは動かずに管球ヘッドのみが回転するため、受診者はリラックスした状態で撮影できる。 森技師は、「2D+トモシンセシスになってからは、よりていねいな説明とポジショニングを心がけています。 撮影時間は増えましたが、前の装置より圧迫による痛みが軽減されており、腕をのせやすく脇の痛みも少ないという感想をいただいています」と言う。トモシンセシス画像については、「スクロールして観察することで、2Dでは重なりでわからなかった部分が見えてきますし、特にMLOだけの1方向の撮影の場合は、解剖学的な位置を把握しやすくなると感じています」と述べた。

超音波検査との比較によるトモシンセシスの有用性

2D+トモシンセシスを実施した件数は、2018年5月~11月15日までで1215件に上る。何森医師は、2D画像や超音波画像との詳細な比較により、トモシンセシスの評価を行ってきた。「当院ではこれまで、スクリーニングのほとんどを超音波併用で行ってきたので、マンモグラフィ単独検診が増えるにあたり、トモシンセシスの導入を行いました。良悪性に限らず、病変や乳腺構造がどのように見えてくるのかを自分自身で検証するために、全例実施してきました」
2Dでは組織の重なりで病変が見にくく見逃しにつながったり、重なった乳房内の正常構造が病変に見えて偽陽性の原因になるが、トモシンセシスを加えることで診断能の向上が期待される。トモシンセシスは現状、乳癌診療ガイドラインの推奨グレードはC1であり、2Dに加えることで診断能が向上するのか、日本国内での検証が求められている。乳腺超音波診断で著名な何森医師がトモシンセシスを使用するのには、トモシンセシスへの期待の高さがうかがえる。
トモシンセシスが有用だったケースについて、具体的な例をいくつか挙げていただいた。
  • 腫瘤(mass):2D画像で指摘された腫瘤について、トモシンセシスで辺縁が明瞭に確認でき、自信を持って診断できる。
  • 構築の乱れ(architectural distortion):乳腺構築の歪みは、乳腺濃度が高いと2D画像ではわかりにくいが、トモシンセシスでは長いスピキュラなどがはっきりと確認でき、拾い上げが確実となる。
  • 石灰化(calcications):一方向撮影の際には、石灰化の分布(散在性、びまん性、領域性、区域性など)が、パターンとしてわかりやすい。
腺葉の間の脂肪組織の状態なども、トモシンセシスでは明瞭に見えてくる。そういった乳腺構造をガイドにして、超音波検査で詳細な検索を行うことが可能となる。
何森医師は、「トモシンセシスは、FADかな?と迷った時に乳腺の重なりだった、ということが判断しやすくなり、不要な精査を減らすことにつながります」と、トモシンセシスを評価した。さらに、「日本人女性の特徴とも言える高濃度乳房(デンスブレスト)に適したトモシンセシスの画質を追究し、マンモグラフィで十分検索できるようになればメリットが大きいと思います」と、国内メーカーとしての技術開発や画質改善に期待を述べた。

総合判定による陽性反応的中率(PPV)の向上に向けて

何森医師は長年、乳がんの総合判定技術の研究と普及に努めてきた。マンモグラフィ、超音波を中心にMRIも含め、それぞれの画像診断の特徴を踏まえて総合的に判断し、確実なカテゴリー判定を行って精査やバイオプシーを減らすことが重要と考えている。総合判定の技術の標準化が図られ、乳癌診療ガイドラインにも反映されて普及していけば、患者の利益にもつながる。
「陽性反応的中率(PPV)が高い偽陽性の少ない診断が理想です。質の高い検診でなければ、“検診の利益”よりも“検診の不利益”が問題とされ、結果的には“患者さんの不利益”が増えることになります」と、何森医師は語る。
画像診断による総合判定において、感度・特異度が高いトモシンセシスは診断能の向上に大きな役割を果たすことが期待される。高松平和病院乳腺外科でのトモシンセシスの知見は、これからの乳がん画像診断の進歩に大きく貢献するかもしれない。

(2018年11月15日取材)

香川医療生活協同組合
厚生労働省指定基幹型臨床研修病院
高松平和病院
香川県高松市栗林町1-4-1
TEL 087-833-8113
https://www.t-heiwa.com/
本ページは月刊インナービジョン2019年1月号に掲載されたものです。
一般的名称 据置型デジタル式乳房用X線診断装置
販売名 乳房X線撮影装置MGU-1000D MAMMOREX Pe・ru・ru DIGITAL
認証番号 224ADBZX00109000