整形外科領域における高性能超音波診断装置の活用

~深部エコー・Superb Micro-vascular Imaging(SMI)技術の有用性
超音波(エコー)装置は性能・画像の進歩が著しく、いまや多くの一般臨床医が用いている。整形外科領域も例外ではなく、エコーガイド下インターベンションは“診療革命”と形容されるまでになっている。
本稿では、“診察室で完結する”診療スタイルを掲げ、エコーガイド下インターベンションを外来の診療室で施行している、まえだ整形外科院長の前田学氏を取材。実地臨床の診断・治療・リハビリテーション(リハ)におけるエコー装置の有用性とインターベンション治療の実際を伺った。
まえだ整形外科(奈良市)院長 前田 学 先生

“診察室で完結する”診療スタイルを目指しエコー装置を最大限に活用

前田氏が2007年に開院した『まえだ整形外科』は奈良公園からほど近い場所にあり、旧市街地に囲まれ、教育施設(幼稚園~大学)も多いため小児から高齢者まで幅広い患者が来院する。
前田氏がエコー装置を使い始め、その有用性を感じたのは大学病院の救急科に勤務しているときであった。その経験から、開院当初からエコー検査を用いた診療を特色の1つとし、経過観察期間を置かず、その場で診断・その場で治療という“診察室で完結する”スタイルを目指してきた。「MRI、CTは検査までに時間を要し、X線も1週間単位の経過観察期間を挟むことになる。もちろんX線・MRI・CTも全身状態の把握のために適宜用いるが、エコー検査は診察室でリアルタイムの画像を診て、即時にブロック注射などの治療が行える強みがある」(前田氏)。そのため、エコー装置は多機能かつ鮮明な画像が得られるハイエンド機種、キヤノンメディカルシステムズ社のAplio iシリーズまたはaシリーズを各診察室に1台ずつ設置しており、来院患者の90%以上にエコー検査を行っているという。
エコー検査は、診察時間の短縮につながるのもメリットである。例えば、患者さんとリアルタイムで鮮明な画像を共有することで説明がスムーズに理解される。また、慣れるまでは装置の操作や患者さんのポジショニングなどに苦労するが、ひとたび見方が定まれば、他の検査を省略できることもある。

小児の外傷や腰椎圧迫骨折などに有用なエコー検査を用いた診断

診断において、特に小児ではエコー検査が有益だと前田氏は強調する。「小児の外傷として多い捻挫は、骨軟骨の裂離骨折を起こしていることがある。外傷時に適切に治療されないと習慣性の捻挫に移行してしまうことがあるが、骨軟骨の移行部の損傷はX線では捉えづらい。しかし、エコーならその場で診断がつく1)。このような手法は成長期のオスグッド病などにも応用可能である」。脊椎分離症なども、MRIにエコー検査を組み合わせることで診断がしやすくなったという。
また、骨粗鬆症を有する高齢者に多い腰椎圧迫骨折は、X線では複数の骨折や圧壊の判別は困難である。確定診断はMRIで行うが、エコーならその前に診察室で骨折を診断できることがある。
圧迫骨折や腰痛の原因を探索する場合は、前田氏は腹側からプローブを押し当て、椎体を撮像している(図1)。「これは宇宙での椎間板の変性を確認するために宇宙飛行士も行っている方法である。プローブを押し当てると腸管が圧迫されて動くので、その奥の椎体、さらには脊柱管も見ることができる(図1)」(前田氏)。
腰痛の原因については、以前は『特異的腰痛は少なく、85%が非特異的腰痛』2)とされていたが、2016年に発表された本邦のデータ、Yamaguchi Low Back Pain Studyで『78%が特異的腰痛』で、治療可能であることが示された3)。しかし、その後日本の腰痛診療が変わったわけではない。その一因として、前田氏は「エコー装置を持つ整形外科医は増えてはいるが、腰などの深部にエコーを当てて診断し、治療につなげる意義が浸透していないのではないか」と指摘した。

エコー検査で深部組織を描出できれば外来で確信あるインターベンション治療が可能4、5)

エコー装置は治療にも大変有用であると前田氏は言う。
例えば、保存療法に抵抗性の凍結肩に対しては、肩関節授動術や関節鏡視下関節包解離術などが行われるが、これらの治療には、全身麻酔や入院管理が必要である。しかし、エコーを使い、神経を描出しながら頸椎神経根ブロックを行うと、サイレントマニュプレーション(非観血的肩関節授動術)が可能になり、外来で行える。
腰痛においては、「依然として非特異的である“謎の腰痛症”を治療する際は、頻度の多い順に、椎間関節、仙腸関節、腰椎椎間板ヘルニアと検討しながら治療していく。私は最近、さらに椎間板に対しても、エコーガイド下でブロック注射を行っている」と前田氏は語る。
最初に検討する椎間関節は深部組織にあり、高周波プローブでは解像度が落ちるため視認しづらい。キヤノンメディカルシステムズ社の10MHzの低周波プローブを用いて描出すると関節水腫などが見やすくなる。ただ、エコー所見で必ず水腫や炎症が認められるわけではなく、例えば、椎間関節性腰痛症(ぎっくり腰)では所見が認められないことが多い。その場合はエコーと触診を組み合わせたSonopalpation法を用いて原因の関節を特定する(図2)3)。「触診で原因関節に触れると、その圧痛で患者さんが痛みを訴えるなどの反応がある」(前田氏)。そして、原因関節にインターベンションを施すと、診察室内で腰痛が改善する。
椎間板ヘルニアの治療で用いられる腰部硬膜外注射も、クリニックの医師が多忙な外来の中で行うにはハードルが高いが、エコーを併用すると、針先を確認しながら直視下の腰部硬膜外注射が診察室内で可能になる。
前田氏はこのような治療が可能になった要因を2つあげた。「1つはSonopalpation法による原因関節の特定であり、もう1つはエコー装置の技術進歩で深部が詳細に見えるようになったことである。エコーで確認しながら可能性が高い部位を1つ1つ検討していけば、治療は確信につながっていくし、患者さんの満足度も高い」。

エコー所見は日常生活の是正やリハの早期開始につながる重要なエビデンス

エコー所見は、リハにも有用だと前田氏は語る。「原因関節が特定できた段階で生活習慣などを聞くと、その関節が悪くなった理由が見えやすくなる。例えば、椎間関節に異常が見られた患者さんに『思い当たることはないか』と尋ねたところ、『仕事で高い位置にあるものを降ろす動作が最近多かったが、五十肩のために肩が上がらず、その分腰を無理に反らしていたかもしれない』といったことを話してくれる。これを最初の問診で聞き出すにはかなりの労力を要するが、エコー所見で特定した原因関節を中心に探索すれば、短時間で確信の持てる帰結に至る。そして、確信がある状況で生活指導を行えば、患者さんの理解も得やすい」。
また、回復の状況やリハ開始のタイミングをエコー検査で確認することも可能である。「骨折の回復は、仮骨が形成され、石灰化を経て骨癒合するプロセスであるため、通常X線で評価される。しかし、骨折の痛みは、仮骨の出現前または骨癒合をする前に取れていることが多く、X線での骨癒合の評価と厳密には一致しない。来院時にエコーを当てながら骨折部位にストレスをかけ、骨折部が動かなくなっていることを確認すると自覚症状と一致した骨折の回復経過を追跡できる」6)
骨折部位が動かなくなれば、骨癒合が起こっていることが推測される。骨癒合すれば、可動域訓練が可能になるので、骨折部位が動かなくなるタイミングをエコー所見で少しでも早く見極め、早期にリハが始められれば、その分回復も早まるので、患者さんのメリットは大きい。
逆に、通常の回復過程に当てはまらないこともエコーで確認できるので、「少しおかしいですね」と前田氏が首をかしげると、「すみません、安静にできず、骨折部位に負担をかけていました」などと話し始める患者さんもいるという。そのような発見が普段の診療の中でできることもエコー検査の強みである。

SMIで深部組織を鮮明に描出するAplioシリーズはインターベンション治療にも有用

前田氏は救急科でエコー検査を始めて以来、エコー装置の技術進歩を診療を通じて体感してきた。「そもそもエコー装置やプローブは腹部の臓器を観察するために開発されている。それを肩関節や手関節に応用するためには、浅部をどれだけ鮮明に描出するかがポイントになっていた。どのエコー機器も、浅部の観察においては神経の1本1本などもある程度は見えるレベルにまで進歩したと思う」(前田氏)。
これに対し、頸部や腰部といった深部組織を観察できるエコー機器は未だ少ないと前田氏は指摘する。「腰部のインターベンションなど、臨床的には5cm程度の深部組織までクリアに描出する技術を備えたエコー機器が必要である。しかし、今のところその条件を満たすのは、当院でも採用しているキヤノンメディカルシステムズ社のAplioシリーズに限られる」。とくに前田氏が評価したのは、Aplioシリーズに搭載された低流速の血流を描出できる技術Superb Micro-vascular Imaging(SMI)である。「異常血管はさまざまな領域で注目されている。SMIでの深部の血行動態の描出能は素晴らしく、今まで不明だった病態の解明が期待できる」(前田氏)。
また、SMIは先のインターベンション治療にも有用だと前田氏は説明する。「エコー下でブロック注射を行う際、薬液が狙った部位に注入されたかどうかをSMI像で視認できる(図3)3)。そのため、確信を持って治療を行えるので、効果が現れれば最終診断になり、効果が不十分なら次の原因探索に取り掛かれるといった無駄のない治療を遂行できる」。ここでも、診療室で診断から治療までを行い、病態の本質に一歩ずつ迫る前田氏の信条が伺える。

エコー装置を用いた診療における課題と展望

前田氏のようにエコー装置を十二分に活用していると、エコー検査の課題や展望も浮かび上がってくる。
「椎間板レベルで脊髄を水平断で見えるようプローブを当てると、椎間板、硬膜管と神経とのコントラストがまだ十分でないことが1つ。また、硬膜外注射を抵抗消失法(loss of resistance法)で針先を硬膜外腔へ進める場合、エコーの技術がさらに進めば硬膜と黄色靭帯を見ながら注射できる可能性があるが、現在は解像度の問題で全例にはできない。もし、関節内や椎間腔などの狭い空間で十分な深さまで解像度が得られれば、どの硬膜外腔でも直視下で治療でき診察室で安心して硬膜外注射ができるようになるだろう」(前田氏)。
最後に、前田氏はこれからエコー検査を行いたいと考えている医師に向け、「エコーでは見えないといった思い込みをなくし、あらゆる整形外科領域で新たな発見をしてほしい」とメッセージを寄せた。

1)Manabu M. et al: J Ultrasound Med. 2017; 36(2): 421-32.
2)Deyo RA, et al.: JAMA. 1992; 268(6): 760-5
3)Suzuki H, et al: PLoS One. 2016; 11(8): e0160454
4)前田学,前田奈々: MB Orthop. 2019; 32(12), 143-152
5)前田学: 関節外科. 2019; 38(1), 37-42
6)前田学,前田奈々,永野龍生: 日本整形外科超音波学会会誌30(1), 2018; 210-219

一般的名称 汎用超音波画像診断装置
販売名 超音波診断装置 Aplio 500 TUS-A500
認証番号 222ACBZX00051000
一般的名称 汎用超音波画像診断装置
販売名 超音波診断装置 Aplio i800 TUS-AI800
認証番号 228ABBZX00021000
一般的名称 手持型体外式超音波診断用プローブ
販売名 リニア式電子スキャンプローブ i24LX8 PLI-2004BX
認証番号 228ABBZX00026000
一般的名称 手持型体外式超音波診断用プローブ
販売名 リニア式電子スキャンプローブ i22LH8 PLI-2002BT
認証番号 229ABBZX00036000
一般的名称 手持型体外式超音波診断用プローブ
販売名 コンベックス式電子スキャンプローブ PVT-475BT
認証番号 229ACBZX00016000
一般的名称 手持型体外式超音波診断用プローブ
販売名 リニア式電子スキャンプローブ i11LX3 PLI-705BX
認証番号 229ABBZX00035000
一般的名称 手持型体外式超音波診断用プローブ
販売名 リニア式電子スキャンプローブ i18LX5 PLI-1205BX
認証番号 228ABBZX00025000