特集 核医学の現状と動向

キヤノンメディカルシステムズ社製デジタルPET/CT装置の使用経験
~純国産半導体PET/CT「Cartesion Prime」の可能性~

江村 隆 先生 国際医療福祉大学成田病院 放射線技術部

はじめに

COVID-19の流行の兆しが見え始め、国内でも感染者への対応可能な病床の必要性から、予定されていた5月開院より2ヵ月ほど早い2020年3月より当院は診療を開始した。核医学部門はCOVID-19の診療に直接的な影響がないことから、開院予定通りの5月より核医学診療を開始した。当院の核医学診断装置は健診棟にキヤノンメディカルシステムズ社製PET/CT装置Celesteion、診療棟に同社製PET/CT装置Cartesion PrimeおよびSPECT装置GCA9300Rの計3台で核医学診療および健診を行っている。また、デリバリにてPET診療を行っている。CartesionPrimeはLYSOシンチレータにSiPMを搭載した純国産のPET/CTであり、いわゆるdigital PET/CTや半導体PET/CTと呼ばれる装置である。半導体PET/CTは従来のPET/CTよりもTOF時間分解能を、さらに短くできることからTOFの効果が高く、実効感度が高い。また、多くの装置においてピクセルサイズを小さくすることが可能である。これを裏付けるように従来のPET/CTよりも鋭敏で微小病変の検出能が高いと報告されている1)。今回、われわれは導入にあたり「がんFDG-PET/CT撮像法ガイドライン 第2版」(以下、撮像法ガイドライン)2)を基に施行したファントム実験や臨床例を提示しつつ、Cartesion Primeの初期使用経験を述べていきたい。

NEMAボディファントム実験

撮像法ガイドラインでは185MBqを70kgの人に投与した想定でBGの放射能濃度を2.65kBq/mLとしている。本検討でもホット球とBGの比を4:1、BGが2.65kBq/mLとなる時刻から30分間リストモードで収集し、30秒ごとに5分間の収集データを切り出した。再構成はPSFを組み込んだTOF付き3D-OSEMを用い、Iterationを2、3、4、Subsetは12で固定、3D Gaussian filterとキヤノンメディカルシステムズ株式会社独自技術であるCaLM3)のパラメータを変化させた。これらのデータからNECphantom、QH,10mm、N10mm、QNR10mmを得た。物理的な計数率特性を示すNECphantomでは2.65kBq/mLの場合、8.8Mcountsが目安となる2)
Cartesion Primeは120secで8.8を超えていた。NECphantomはTOFの影響を受けないため、さらなる短時間収集においても高画質を期待できる結果となった(図1)。
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図1 NECphantom(2.65kBq/mL)
後処理フィルタを使用していない場合、QNR10mmは30secにおいて2.2を超えていた(図2a、図3a)。N10mmは従来PET/CTと比較しても大きな差はないものの、QH,10mmは非常に高く、TOFの効果を反映したものと考えられる(図2b、c)。後処理フィルタを用いない場合、QNR10mmはIteration 2、Subset 12が最も良い結果となった(図3b)。
これらの結果は、従来と同等の収集時間では画質の向上が見込め、従来の画質を維持したまま短時間収集や投与量の減量が可能であることが示唆される。長時間の姿勢保持が難しい症例に対しての短時間収集や同期収集など、従来PET/CT装置では収集時間を長く設定する必要のある検査に有用であると示唆される。
従来のPET/CT装置では、一般的に120〜180sec/bedで収集することが多い。120〜180sec/bedでの収集ではCartesion Primeでも10mm球を基準としたガイドラインの物理的指標を、スムージングフィルタを用いずに満たすことは難しい。QNR10mmは後処理フィルタを用いても2.2を下回ることはなく、ノイズ特性を示すN10mmとコントラスト特性を示すQH,10mmのバランスを考え、従来通りに1bed当たりの収集時間を固定して収集することを想定するとIteration 2、Subset 12でGaussianfilter 4.0mm付近が物理的指標を満たす条件となった(図4)。
図4 臨床の収集時間でのフィルタ特性
キヤノンメディカルシステムズ社独自技術のCaLMは再構成の更新回数、収集時間が長いほどその効果が大きい傾向であった。OSEMを用いた再構成ではIterationを多くするとコントラストは高くなるがノイズが増加する。CaLMはその原理からコントラストが高いほどその効果が期待できる4)。今回の検討では最も更新回数の多いIteration 4、Subset 12において収集時間が150secを超えてくると効果が高くなった(図5)。
図5 CaLMとGaussian filterの比較
N10mmが同程度となるGaussian filterとCaLMmildを視覚的に比較してみると、CaLMを用いた方が180secと300secで、共に10mm球の描出がはっきりとしている。収集時間を150sec以上、Iterationを高く設定することで、全体的に平滑化するGaussianfilterに比べ、画像内の濃度勾配を基に重み付けをするCaLMの方が、10mm球の視認性が向上している(図6)
図6 同一ノイズレベルでのCaLMの有効性

当院の腫瘍糖代謝FDG-PET/CTプロトコル

一般的な体格で標準的な投与量が確保できる場合、PET収集に要する時間を、CT撮影を除いて20分前後と考えた。当院では事前に得た体重を基に、FDG注文時に検定時間と検定量を調整することで投与量を最適化している。検査目的が腫瘍もしくは大血管炎の場合、FDG投与50分後と120分後から収集を開始するプロトコルとしている。FDG投与50分後の総撮像時間は寝台への移乗を含めて30分とし、PET収集時間を20分としてスケジュールしている。Cartesion Primeは体軸方向の視野が270mmと広く、標準体型では6ベッドで頭部から鼠径部までを収集することができる。大澤らはファントム実験にてPETの画質は被写体の断面積に依存すると報告しており5)、臨床データにおいても、体格によって最適な収集時間が異なることが報告されている6)。FDGの集積を健常者で考えると、細胞密度が疎な体脂肪や空気を多く含む肺にはほとんど集積せず、筋肉や血管には高集積部位に比較して集積の程度は低く、実質臓器や腸管、脳には多く集積する。正常組織にFDGが多く取り込まれる場合、病変とのコントラストを得るためには多くの同時計数が必要である。人体をその断面積とFDG放射能濃度の観点から分けると、それぞれ頭部・胸部・腹部・骨盤部と分けて考えることができる。Cartesion PrimeにはVariable Bed Time(vBT)が搭載されており、4Phaseまで自由に1ベッド当たりの収集時間を簡単にプロトコルとして設定できる。当院では頭部を90sec、胸部を180sec、腹部を300sec、骨盤(近位大腿部)を150secの総収集時間20分として設定し、収集時間を可変させている(図7)。再構成条件はIteration 4、Subset12とし、CaLMのmildを使用している。収集時間の短い頭頚部や大腿部でのノイズは目立つものの、収集時間の長い胸腹部においては集積部位の視認性が優れている(図8)。今後、頭頚部領域についてはさらなる検討が必要であるが、少なくとも臨床的に問題なく、胸腹部の収集においては十分な画質を担保していると考えている。

おわりに

当院のCartesion Primeでのファントム実験および臨床使用条件を紹介した。SiPMを搭載したキヤノンメディカルシステムズ社製Cartesion Primeは臨床的に体軸方向の視野が270mmと広く、検出器系の時間分解能が良く、TOFの効果が高いことから実効感度が高いため、臨床では高画質化あるいは短時間収集、低投与量化が期待できる。また、収集時間を部位別に簡単に設定することが可能で、時間が必要な部位と、そうではない部位をルーチン検査で人体の収集を最適化できる可能性がある。初期検討では10mm球を基準としたガイドラインを基に収集再構成条件の検討を行ったが、実際の臨床では、経験的に今まで描出が難しかったと思われる微小病変が比較的はっきり描出できていることから、その空間分解能の高さに驚いている。今後は10mm以下の微小球での検討や低投与量を想定したより低い放射能濃度での検討が必要であるとわれわれは考えている。今回、提示することができなかったが金属アーチファクト低減技術であるSEMARの有効性や、CT側の被ばく線量指標がDRL2020で公開されたことから、CTの被ばく線量低減術であるAIDR 3D Enhancedなども有効であると考えている。現在、新しいDeep learningを用いた画像処理技術も報告されている7)。さらなる純国産PET/CT装置の発展を一人のユーザとして希望している。最後に本稿の執筆にあたり、多くのご助言いただきましたキヤノンメディカルシステム株式会社 山﨑雄太氏、ならびに多くの画像処理を行っていただきました開発部の皆様に深く御礼を申し上げます。

参考文献
1)Baratto L et al: 18 F-FDGsilicon photomultiplier PET/CT: A pilot study comparing semi-quantitative measurements with standard PET/CT. PLoS ONE 12(6): e0178936, 2017
2)Fukukita H et al: Japanese guideline for the oncology FDG-PET/CT data acquisition protocol: synopsis of version 2.0. Ann Nucl Med 28(7): 693-705, 2014
3)小野剛史:新しいノイズ低減法CaLMの使用経験~ガウシアンフィルタとの比較検討~ . 映像情報メディカル51(11): 4-9, 2019
4)河田諭志ほか:高画質なデジタルカメラを実現するランダムノイズ除去技術. 東芝レビュー 65(9): 32-35, 2010
5)大澤敦ほか:三次元PET収集における被写体断面積と画質の関係. 日放技68(12): 1600-1607, 2012
6)島田直毅ほか:FDG-PET/CT検査における物理学的指標に基づいた収集時間の最適化. 日放技 67(10): 1259 -1266, 2011
7)立石宇貴秀:デジタルPET/CTの使用経験と将来展望.INNERVISION 35(7): 71-72, 2020

*本ページは映像情報メディカル2020年11月号に掲載されたものです。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれている場合があります。
*CaLMはClear adaptive Low-noise Methodの略語です。

一般的名称 X線T組合せ型ポジトロンCT装置
販売名 PET-CTスキャナ Cartesion Prime PCD-1000A
承認番号 301ACBZX00003000