Nuclear Medicine Today 2021

半導体検出器搭載PET/CT の技術と臨床の最前線
当施設の最新PET-CT 装置の特長と実際

●装 置:Cartesion Prime
●メーカー:キヤノンメディカルシステムズ

須山 淳平 先生 杏林大学医学部放射線医学教室
いつも画像診断の仕事ばかりしていると誰だったかと思い出せないかもしれないが,今回紹介する「Cartesion Prime」(キヤノンメディカルシステムズ社製)の機種名は,デカルトに由来するそうである。デカルトは,17世紀にフランスで活躍した偉人で,主には哲学者として知られているが,数学者でもあるそうである。どう関係してくるかというと,デカルトが直交座標を確立したからだそうで,このCartesion PrimeもPET装置の新しい基準軸を確立するという意気込みから,デカルトのラテン語名である“Cartesius”から名づけられたそうである。後半の“-ion Prime”の部分は,CTの部分をキヤノンメディカルシステムズ社のCT装置「Aquillion PrimeSP」をベースにしていることからつけられている。
Cartesion Primeは,2019年にキヤノンメディカルシステムズ社よりリリースされた,国産では初となる半導体光検出素子〔siliconphotomultiplier(以下,SiPM)使用〕を用いたdigital PET-CT装置である。これに対し,前機種は「Celesteion」と言い,90cmのラージボアによる快適な空間を実現,かつ高性能time-offlight(以下,TOF)による優れた画像取得が主な特長で,今も活躍している。Cartesion Primeでも同じように,78cmのワイドボアの開放的な構造を可能にしている。ちなみに“Celeste”は天空という意味で,“Celestial”と形容詞にすると,天国の,神聖な,すばらしい,最高の,といった上級の誉め言葉になるそうである。このように,名前から考えると,製作側の意図というか,機器へのイメージの理解が少し深まる気がする。
以下には,名前に偉人のイメージが盛り込まれているCartesion Primeの特長を記す。

PET-CT装置の新しい基準軸として

1.高精細撮像を実現した検出器
Cartesion Primeの検出器には,発光量が多く,減衰時間が短いLYSOシンチレータを用いており,4.1mm×4.1mmの微細な構造を実現している。光検出器の半導体には,他メーカーの機種でも主に用いられているSiPMが採用されている。最もその恩恵を受けるのはTOF機能であり,時間分解能は,280ピコ秒未満の高性能な検出器となっている。SiPMと微細構造のLYSOシンチレータとを1対1にカップリングすることで,アンガーロジックによる位置計算が不要となり,シンチレーションを効率化できる。また,効率化に伴い指数関数的に増える偶発同時計数に対して,3.2ナノ秒の同時計数ウインドウ幅を実現することで,効率的な収集と優れたSNRの両立を図っている(図1)。この高性能な検出器が,Cartesion Primeの高画質の基礎となっている。
図1 高精細撮像を可能とする検出器
2.独自の優れた再構成法(CaLM,AiCE)
Cartesion Primeが導入されてから,臨床側に装置の特長を伝えるのに,「画像がキレイなんです」と言うことが多くあった。検査依頼される先生方も,第一印象としてその点が好印象の様子で,PET装置も定量性や分解能だけでなく,人体を表現した像としてのキレイさへの要求が増してくるのだろうと感じることが多い。これに関しては,キヤノンメディカルシステムズ社の独自の再構成法が大きく関連しているものと思われる。
われわれの施設への導入当初は,従来より用いられている平滑化フィルタの一つであるGaussianフィルタと,キヤノンメディカルシステムズ社独自の再構成法である“CaLM”を用いた画像との対比を行い,視覚評価とファントムによる検討結果からCaLMを選択した。CaLMは“Clear adaptive Low-noiseMethod”の略である(図2)。この技術では,Gaussianフィルタなどでノイズを低減した時に生じるコントラストの低下,つまり,集積のボケを防止することを可能としている(図3)。これにより,高画質で明瞭な画像を実現している。CaLMの効果の強さには3段階あるが,当施設では最も軽いmildを選択している。装置自体がもともと高性能なので,これで十分きれいな画像が得られている。
図2 CaLMについて
図2 CaLMについて
図3 CaLMの有用性
図3 CaLMの有用性
もう一つは,“AiCE”という人工知能を応用した技術がある。AiCEというのは,“Advanced intelligent Clear-IQEngine”の略で,すでにCTやMRIには応用されており,その有用性が検証され,効果を発揮している。これもキヤノンメディカルシステムズ社の独自の技術であり,2021年7月よりPETにも臨床導入された。すでに初期的な検討について報告されており1),この装置を所有する各施設でその有用性が確認されてきていると思われる。PETにおいては,長時間撮像したデータを深層学習における教師データとしている。それにより,臨床で得られた統計ノイズが含まれる基画像において,シグナルとノイズを識別することを可能とした。この技術により,①通常画像のコントラストの向上,②短時間収集の実現,③低投与量での検査施行などが期待できると言われており,実際に臨床例を経験していくと,明らかにいずれも実現可能であることがわかる。
AiCEは人工知能を用いた最先端技術であり,今後の発展も含め,かなりインパクトを与えるものと感じている。高コントラストを保持したままノイズを低減するという意味では,CaLMもAiCEも同様に目的を達成している。ただし,CaLMはかなり高画質を実現できる再構成法なので,AiCEとどちらが診断画像として適しているかは,使用者側で検討を要するかもしれない。簡単な言い方をすると,CaLMはこれまでのPETの収集のあり方の延長線上であるが,AiCEはまったく新しい技術である。そのため,画質に関しても一目で区別がつくほどの違いがあり,画像を見る側の感覚,最終的な好みも含めて選択する必要性を感じている。特に,他機種と併用している場合では,画像の見た目の違いは問題となると考える。本稿全体で述べているとおり,Cartesion Primeでは,そもそも高画質を実現しているので,従来法のGaussianフィルタも十分に選択肢になりうると思われる。図4に,実症例での各再構成法による画像の見え方の違いを提示する。
sou

図4 50歳代,女性,左肺腺がん(←)と左乳がん(◀)の重複がん症例
a:CT肺野条件。左上葉に胸膜陥入を伴う結節を認める。 b:CT軟部条件。左乳房外側に腫瘤性病変を認める。
c:FDG-PET MIP画像〔左からGaussianフィルタ4mm,CaLM(mild),AiCE〕
d:FDG-PET肺がんレベルのアキシャル画像〔左からGaussianフィルタ4mm,CaLM(mild),AiCE〕
図5 vBTの使い方の一例
3.vBT(Variable Bed Time)機能:目的の部位を詳しく撮るという新たな発想
今までは,全身の1bedあたりの撮像時間を,例えばルーチンで3分とし,全身で30分ほどの撮像を基本に,高体重やPET製剤の投与量が少なくなった場合などは収集時間を追加して補っていた。
Cartesion Primeでは,初期検討の結果,ガイドラインに準じた投与量であれば,1bedあたり1.5分で十分な撮像がされていることがわかっていた。当施設では,通常ルーチンを2分/bedとしており,さまざまな検討により十分な画質と定量性が得られていることを確認している。高体重,低投与量となった場合も,3分/bed収集であれば,必要とされている2倍の時間で収集していることになる。なお,この装置のもう一つの利点に,SiPMを利用して高性能を保ちながら,体軸方向の有効視野が27cmと,現存のPET装置の中では大きい検出器が搭載されたことが挙げられる。全身検査での繰り返し撮像回数を減らすことができ,収集時間の短縮と併せて,スループットの向上に役立っている。このため,現在,当施設の検査枠は20分/検査で事足りている。
図5 vBTの使い方の一例
新しく搭載されたvBT機能は,収集部位ごとに1bedあたりの収集時間を自由に変化させながら全身像を撮像することも可能で,例えば,頭頸部2分,胸部3分,腹部5分,骨盤部2分などの設定が可能である(図5)。この機能は,重点的に撮像したい部位にのみ収集時間をかけることを可能とし,目的部位の画像をきれいに撮ることができる。また,他部位に時間をかける必要がなくなるため,適切な撮像時間で目的に応じた撮像を行うことができる。
使用法としては,以下の2つの目的が考えられる。①ルーチンで厚みのある体幹部などを重点的に撮像する。②病変が想定される部位の分解能に重点を置き,時間をかけて撮像する。われわれの施設では,①,②の双方に配慮したプロトコールの実現をめざしている。
4.80列の高性能CT
Cartesion Primeでは,CT装置の部分にも力を入れている。80列CTを搭載しているため,そもそも全身撮影には有利であると言える。高速撮影が可能なこと自体が画質にも寄与するが,同時にスライス厚を薄くした高精細な画像取得が可能であり,その上,全身を短時間撮影できれば被ばくも抑えられる。CTでの撮影枚数の増加は被ばくの問題につながるが,キヤノンメディカルシステムズ社の独自の機能である被ばく低減技術“AIDR 3D Enhanced”や,先に記載したCT向けの“AiCE-i”が搭載されており,これらの問題はクリアできる。現在,われわれの施設では,AIDR 3D Enhancedで被ばく線量を半分に設定し,AiCE-iにてノイズを低減することにより,良好な画像を得ている。PET-CTでは,撮像範囲を広げるほどCTでの被ばくが問題となるが,これら機能は,PETの収集時間の短縮化と相まって,積極的な遅延相の取得にも関連してくる。このように,PETの収集機能の向上を生かすには,CT部分の性能への要求が増してくるものと考えられ,当装置はその意味でも先駆けており,新しい座標軸となっていると考えられる。
5.国産メーカーならではのスペースを配慮した構造
今回,当施設では初めてのPET-CT装置導入となったためいろいろ検討したが,従来の核医学検査室を一般核医学とPETの検査室に分けての導入となった。そのように書くと,かなり狭いスペースに機械を入れ込んだような印象になるかもしれないが,実際には東京都内の大学病院にしては核医学検査室が余裕のあるスペースとなっていた上に,検査数から考えるとガンマカメラの台数を減らしても十分検査数をこなせることが考えられたので,結果的にはスタッフのスペースのみ少し手狭な感があるが,十分余裕のある検査室になったと思う。キヤノンメディカルシステムズ社がどのような発想で設計したかは存じ上げないが,今回の導入にはCartesion Primeのコンパクトな設計がとても助けになった。その理由の一つは,一般的に半導体PETに必要なチラー(冷却水循環装置)が不要で,1台の空冷で運用できていることである。これによって,冷却用の室外の機器や室内の個室もいらず,チラー維持に必要なさまざまなコストについても削減できる。これによる不具合は現在のところ生じていない。また,機器のサイズもキヤノンメディカルシステムズ社の前機種であるCelesteionよりも縦幅および横幅とも縮小しており,全体として約18%は省スペース化できているとのことである。冒頭に述べたように,天空感を出していたボアの広さは若干縮小したが,それでも78cmのワイドボアは解放感を有している(図6)。
図6 Cartesion Primeの外観
さらに,寝台は,フットスイッチにより最低地上高を47.5cmまで下げることができる。そのため,昇降用の踏み台や付属品なども不要であるし,また,医療従事者の被ばくも低減できている。
ほかにも種々の細かい機能が盛り込まれているので,いろいろな紹介記事やホームページを参考にしていただきたいが,設計に関する感想としては,製作過程で国内の技術開発の方々の感覚が組み合わされて,われわれ日本人の使用感にフィットするものが必然的に作り出されたのではないかと感じられるつくりである。

●参考文献
1)Tsuchiya, J., et al. : Deep learning-based image quality improvement of 18F-fluorodeoxyglucose positron emission tomography: A retrospective observational study. EJNMMI Phys ., 8(1):31, 2021.

* 本ページは月刊インナービジョン2021年10月号に掲載されたものです。
* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
* Advanced intelligent Clear-IQ Engine:AiCEは画像再構成処理の設計段階でAI 技術を用いており,本システム自体に自己学習機能を有しておりません。

一般名称 X線CT組合せ型ポジトロンCT装置
販売名 PET-CTスキャナ Cartesion Prime PCD-1000A
認証番号 301ACBZX00003000