“AI”による新しいSNR向上技術
Advanced Intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)導入事例

無痛MRI乳がん検診など、ソフトウェアバージョンアップによって得られた臨床効果

中山 文枝 先生 社団医療法人 養生会 かしま病院 理事 診療部 部長(写真左)
阿部 公志郎 技師 同院 医療技術部 放射線画像診断科 科長(写真右)※文中敬称略

社団医療法人 養生会
かしま病院

福島県いわき市に位置する社団医療法人養生会かしま病院は、市内から多くの患者を受け入れ、地域医療に貢献しています。また、東京慈恵会医科大学、聖マリアンナ医科大学からの研修医の受け入れや、福島県立医科大学と協働した病院総合医の育成など、次世代育成にも力を入れている病院です。
同院では2020年4月よりキヤノンメディカルシステムズ社製の1.5T MRI Vantage Orianが稼働しており、バージョンアップによりMRI検査の幅が広がりました。今回は、病院理事であり日々読影を行う中山先生と、現場でMRI検査を行う阿部技師に、バージョンアップ後の検査の実態をお伺いしました。

バージョンアップの経緯

― バージョンアップに至った経緯を教えてください。
中山 以前より、いわき市の乳がん検診の受診率を向上させたいと考えており、MRIによる乳がん検診によってそれを実現したいと考えていました。そのためには精度の高い乳腺DWIが必要だと感じていました。また、画質は落とさず今までより短時間での検査によって、検査件数をさらに増やしたいとも考えていましたので、装置のバージョンアップを実施いたしました。
阿部 Vantage Orianを導入してから先生方からの画質評価が高く、他院からの紹介も大幅に増えていました。そのため、これまでの検査枠では検査待ちが多く発生していたため、さらなる検査の短時間化の実現と、先生方の期待に応えられるような画質向上を期待して、バージョンアップを実施しました。

バージョンアップ後の実際

― 実際にバージョンアップを実施して検査にどのような変化がありましたか?
中山 当初目的としていた、無痛MRI乳がん検診を開始しました。バージョンアップによって脂肪抑制もより均一に効いているため、乳腺DWIの画質が格段に向上しました。
阿部 バージョンアップで搭載されたSmart IRによって磁場不均一になりやすい乳腺でも安定した脂肪抑制が可能になり、RX/TX Correction plusによって乳房内信号が均一になったため、綺麗なDWIを撮像できています。また、受信コイルが受診者の乳房サイズに合わせて可変できるため、コイルを近接させることで画質向上が可能です。(図1)
― 無痛MRI乳がん検診を始めて、受診者様の反応はいかがですか?
中山 受診者へアンケートを実施していますが、ほとんどの方が最も重要視しているのは精度です。そのため、乳腺DWIの画質向上は、受診者のニーズと一致しているといえます。当院では、D判定以上の方には私が画像について説明しています。受診される方は、不安を抱えて受診されますが、精度の高い診断ができる点は、受診者の不安を払拭することにもつながっています。
阿部 着衣のまま受診できる点や、痛みがなく検査自体わずか15分で終わる点も好評です。今では県内だけでなく、県外からも多くの方に受診いただいており、開始から10か月経過しましたが、無痛MRI乳がん検診だけで、すでに200件以上の検査を実施しました。
中山 そうですね。検査数増加につながっていますので、病院経営にも大きく貢献している検診です。
― その他にバージョンアップ後、画質面ではどのような変化がありましたか?
阿部 乳腺以外の部位でもDWIの歪みが少なくなりました。これはRDC DWIが使用できるようになったのが大きいと思います。RDC DWIは対となる2方向の位相エンコードで収集し、歪み量を表すシフトマップを作成することで補正しますので、磁化率の違いが大きい領域での歪みを低減しています。
中山 こちらは前立腺がんと診断された患者様ですが、腸管のガスの影響を受けやすい前立線DWIにおいても、RDC DWIにより歪みが抑制されています(図2)。T2やADCなど他コントラストと比較しやすく、診断能が向上しました。
― 検査にはどのような変化がありましたか?
中山 救急では確実かつ早い診断が求められますが、きれいな画像が短時間で得られるため救急の受け入れ件数も増やすことができています。当院は救急応需率80%を目指しており、昨年は救急を年間2,200件以上受け入れることができました。
阿部 Exsperが搭載されたことでAiCE*と組み合わせてさらなる短時間化が可能になりました。飛び込み検査への素早い対応ができ、稼働率を向上できました。こちらは圧迫骨折で搬送されてきた患者さんの画像ですが、10分以内で検査を終えています(図3)。救急ですと特に痛みや吐き気により長時間検査が難しい方も多いため、短時間できれいに撮像できるのは現場としても助かっています。
中山 ただし、検査時間が短くなっても画質を落としては困りますので、画質は落とさないようにしてほしいと放射線科へ要望していました。
阿部 中山先生からのご要望を受け、我々もこだわって何度も条件検討を実施しました。バージョンアップ後は、ほとんどの検査で、以前より高画質ながら時間は短縮しています。
中山 放射線科の努力の甲斐もあり、検査枠が増え検査を受け入れやすくなりました。短時間化したにもかかわらず、外部の先生方からも「かしまの画像はすごくきれい」と高評価をいただいていますし、私自身も以前より画質が向上したと感じています。
阿部 さらに、脳ドックにおいてもMRAにFast 3Dモードが適用できるようになりましたので、描出能を落とすことなく短時間で綺麗なMRAを撮像できるようになりなりました(図4)。
中山 当院のMRI検査は一台で運用していますので、スピーディに検査を回せることは重要です。バージョンアップにより短時間で綺麗に撮像できることは、病院にとって大きなメリットになっています。
― その他にVantage Orianを使用していて便利な機能はありますか?
阿部 操作性においては、撮像アシスト機能を頻繁に使用しています。Auto Scan Assistによって断面設定が簡便化され、再現性が向上するため、ローテーションで担当技師が変わる当院では重宝しています。また理事長が循環器科医のため心臓検査も頻繁に行います。心臓は断面設定に時間を要することが多いのですが、Cardio Line+のおかげで誰でも簡単に撮像できています。
中山 機能ではありませんが、キヤノンのフォロー体制には大変満足しています。何かあったらすぐに駆け付けてくれます。装置が壊れてしまうと患者さんにご迷惑がかかり、病院経営への影響も大きいため、迅速に対応してくださるのは本当に助かります。
阿部 私も同じ意見です。トラブル時にはサービスエンジニアの方を頼りにしていますし、また新たな検査を始めるときにアプリケーションスペシャリストの方が丁寧にフォローしてくださるのも大変助かります。我々が新しい検査を勉強しても、それを装置で実行できるかは別の話です。キヤノンの手厚いフォローがあることで、新たな取り組みへのハードルは低くなっていると感じます。
中山 性能の進化だけでなく、その性能を生かすサポート体制が整っていることは、安心して使用できるメーカーだと思っています。

今後の展望

― 今後の展望をお願いいたします。
中山 今回新たな検診を始めましたが、今後さらに予防医療としてのMRI検査が普及していくと考えています。検診での活用を増やし、さらなる地域貢献に尽力したいです。
阿部 撮像時間が非常に短くなっていますので、検査自体を短くするためワークフローの短縮化にも取り組みたいと考えています。さらに短縮できないか、簡便化できないか、日々追い求めていこうと思います。

*本システムは画像再構成に用いるネットワーク構築にDeep Learningを使用しており、本システム自体に自己学習機能を有しておりません。
*AiCE:Advanced intelligent Clear-IQ Engine
記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。掲載内容は予告なく変更する場合があります。掲載内容はオプション構成品を含みます。

一般的名称 超電導磁石式全身用MR装置
販売名 MR装置 Vantage Orian MRT-1550
認証番号 230ADBZX00021000