キヤノンメディカルシステムズ社製MRI装置 / インタビューレポート

Vantage Gracian が支える“先進的”な整形外科診療

東京先進整形外科 院長
面谷 透 先生
東京先進整形外科(東京都調布市)
東京先進整形外科は2022年9月東京都調布市に開院し、スポーツ整形をはじめとする幅広い診療を提供している。敷地内にはフットサルコートや投球練習場などのスポーツ施設や、リハビリテーションやスポーツ動作の確認に用いるパフォーマンスエリアが完備されている。面谷透氏は超音波診断装置(エコー)を軸に、単純X線装置とMRI装置とを駆使して様々な診療を行っている。今回はスポーツ整形の診療における画像診断装置の役割と有用性について、特にMRIが果たす役割と今後の期待について伺った。
東京先進整形外科(東京都調布市)

●東京先進整形外科を開院した経緯

あらゆる病態に対して適切な治療ができるように「エコーガイド下治療の全てを提供できるプラットフォームを作りたい」という想いから東京先進整形外科(Tokyo Advanced Orthopaedics:TAO)を立ち上げました。
先進的な医療をひとつの施設だけが提供できても、その恩恵を受けられる患者さんの数には限界があります。より多くの患者さんが恩恵を受けられるように、当院では医師や理学療法士へ向けた啓発活動を行うTAOアカデミーを開講しています。
先進的な治療の“普及”と“啓発”を行う中心に東京先進整形外科があります。

●運動器エコーが診療の軸となる中でMRIを導入した理由

ひと昔前まではX線、CT、MRIが整形外科診療の中心でしたが、2000年代になって運動器エコーが登場し、その場でリアルタイムな診療ができるようになりました。それまでは骨を診るのが中心でしたが、運動器エコーで筋肉や神経といった軟部組織をターゲットにできるようになり、整形外科領域に大きなインパクトを与えました。
そうした中でMRIを導入したのは、エコーで拾いにくい異常所見、特に骨や腱の内部や間の組織、腰や殿部など身体の奥深くまでの評価に期待できたからです。特に当院では、難治性の痛みを持つ患者さんやスポーツ選手が多く、疲労骨折や靭帯損傷に対して的確な診断を行うためにMRIは必須と考えました。
当院で導入しているエコー、MRI、X線の弱みと強みをしっかりと理解した上で、各装置から得た情報を補完しながら的確な診断をし、適切な治療に結びつけるマルチモダリティ診療が重要です。

●Vantage Gracianを選んだ理由

もっとも重視したのは画質です。より安価な他のMRI装置を導入する選択肢もありましたが、高画質なMR画像を取得することが診断に役立ち治療に直結します。キヤノンメディカルシステムズ社製のVantage Gracianにはディープラーニングを用いたデノイズ技術である”Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”が搭載されており、短い撮像時間で高画質な画像を得ることができます。それこそがまさに当院が求めていたもので、Vantage Gracianを選ぶ決め手となりました。
面谷先生と先進的な診療を支える理学療法士、臨床検査技師の皆様

●整形外科診療におけるAiCEの活用

図1. 膝蓋腱障害に対するエコーガイド下percutaneous ultrasonic tenotomy
骨や靭帯など表在領域にある組織では、運動器エコーで十分な高分解能画像が得られます。そのためMRIではそれ以外の領域や深部組織において、「エコーよりも優れた分解能が得られる画質」を基準として撮像パラメータを吟味して設定しています。当院はスポーツ選手の患者さんが多く、エコーのみで診断や治療方針を立てるのが難しいケースもあります。MRI検査を実施し、画像からの情報を活用して診断に結び付けるというフットワークの軽さが重要です。AiCEを用いれば、短い撮像時間でも診断に貢献する高画質な画像が得られるため、1人15分で検査を回すことも容易になりました。

治療においてAiCE適用のMR画像が役に立った症例を提示します。キヤノンメディカルシステムズ社製超音波診断装置のAplio i-seriesに搭載されたSmart Fusionを用いると、スキャンしている超音波画像とリファレンスのMR 画像をリアルタイムに連動させて表示することができます。図1は膝蓋腱障害の症例で、変性のある腱を超音波ガイド下でクリーニングするpercutaneous ultrasonic tenotomyを実施しました。エコーでは腱全体が腫脹して低エコー変化をきたし、吸引すべき病変部がわかりにくい症例でした。AiCEを適用したMRIの3D T2強調画像を見ると、変性を示す高信号部分が明瞭であり、施術範囲の正確な設定に非常に有用で、そこを指標にしながらエコーガイド下手術を実施できました。
図1. 膝蓋腱障害に対するエコーガイド下percutaneous ultrasonic tenotomy
腱障害は、エコーでは腱全体が低エコーとなり変性と浮腫を見分けることが難しいケースがありますが、AiCEを適用したMRIのT2強調画像や脂肪抑制T2強調画像をみると浮腫と変性の境界が明瞭です(図2)。
図2. 腱障害のエコー画像とMRI画像の比較
図3. 腰椎椎間板ヘルニアに対する超音波ガイド下椎間板内注射
開院後、MRIがより身近になったことで、腰痛の患者さんに対してMRI検査を行うケースが増えました。これまでは下肢痛を呈し腰椎椎間板ヘルニアが疑われる症例へのMRI検査が主でしたが、開院後はMRI検査の適応を広げ、下肢痛を伴わない腰痛単独の症例に対しても検査を行っています。椎間板の変性や神経根を圧迫しない程度のヘルニアが散見されることがあり、これまでは見過ごしていたかもしれない脊柱管内病変を指摘することができています。MRI画像があると、「エコーをこう当てれば病変が見えるはずだ。」と想像ができるため、エコーガイド下椎間板ブロックといった先進的な手技に結びつけることもできています(図3)。ハイクオリティな診断モダリティを揃えることで、先進的な治療にチャレンジできる土壌が出来上がっていると感じています。
図3. 腰椎椎間板ヘルニアに対する超音波ガイド下椎間板内注射
当院ではPRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)という治療も行っています。PRPは、血液を遠心分離機にかけると5 分ほどで抽出でき、対象組織へ注射することで炎症を抑え、修復を促す効果があります。慢性的な炎症を起こしている関節やアスリートの靭帯損傷や難治性の疲労骨折にPRP注射を行い、できるだけ離脱期間を少なくして早期に競技復帰できるよう手を尽くしています。
前十字靭帯の治療に関しては、手術以外の選択肢がないというのが常識でした。しかし近年ではPRP注射が治療選択肢になり、患者さんに手術以外の治療法を提供できる可能性を示唆する論文が出てきています。その評価の判断基準として重要なのがMRIです。PRPを用いた保存治療で靭帯が修復していく経過を、本人の自覚症状と客観的な臨床成績と合わせて、画像からも判断できることが非常に有用です。高頻度に経過をフォローしたい前十字靭帯損傷の保存治療や肉離れ治療など、エコーだけでは判断に迷う場合に、MRIがあることは大きな強みと考えています(図4, 5)。
図4. PRPを用いた前十字靭帯損傷の治療経過
図4. PRPを用いた前十字靭帯損傷の治療経過
図5. PRPを用いたハムストリングス肉離れの治療経過
図5. PRPを用いたハムストリングス肉離れの治療経過

●整形外科診療におけるMRI Bone Imagingの活用

MRIのBone Imagingでは、CTで描出できるような骨の情報に加えて、通常のMRIでは低信号で描出される腱や靭帯などが高信号に描出されます。特に腰椎分離症の評価に有用です。10代で腰痛をもつ患者さんの半数近くが分離症であるといわれることもあり、若年者では積極的にBone Imaging撮像を実施しています。腰椎分離症において、脂肪抑制T2強調画像で病変の有無を見分けることはできますが、治療方針を決めるうえではステージングの判断が重要です。ステージングを的確に診断することで、保存治療の程度と骨の癒合確率を予見できます。図6は、Bone Imagingにより病変の有無に加えステージングの判断ができた腰椎分離症の例です。従来のMR画像だけではステージングまでは分からず、CT撮影を追加する必要がありました。しかし、CTとMRIの同時導入は、クリニックや診療所にとって設置場所やランニングコスト、人員的な問題にも結び付きます。また、CTは患者さんの被ばく問題もありますので、繰り返しフォローが必要な場合はMRIが適切と考えています。AiCEを適用すればBone Imagingを追加しても15~20分で検査可能であることは、日々の診療で役立っています。
図6. 腰椎分離症におけるBone Image
図7. 橈骨頭疲労骨折におけるBone Image
Bone Imagingは、四肢においては疲労骨折の評価にも有用です。スポーツ選手に疲労骨折が見られた場合には、骨折線の入り方や不安定性の評価が重要です。特に骨折が関節内に及んでいるケースではその不安定性に応じて、競技を休ませないといけません。スポーツ選手を現場に送り出す際は、しばらく休むべきなのか、練習の頻度や負荷を落とせばいいのか、それとも全力でやっていいのか、非常に厳格かつ具体的な指示が求められます。高画質なBone ImageはVolume Renderingを作成できるため(図7)、骨折線の入り方や不安定性を3次元的に評価し、治療方針や練習内容、復帰スケジュールの決定に役立ちます。
図7. 橈骨頭疲労骨折におけるBone Image

●今後の整形外科診療におけるMRIへの期待

AiCEなどのディープラーニング技術やBone Imagingの登場により、MRIの守備範囲がCTの領域まで広がってきているように感じます。近い将来、少なくとも運動器領域のCTはMRIにある程度置き換わるパラダイムシフトが起こると予想しています。今後の運動器MRIの発展としては、心臓や脳神経領域で活用されているファンクショナルイメージングや動態MRIができるようになると、さらなるイノベーションが起こせると考えています。それらにより新たな病態の解明や、MRIガイド下のインターベンションも可能になるかもしれません。もちろんそのためには治療デバイスの進歩も必要です。一見夢物語に思えるかもしれませんが、AiCEがMRIの撮像時間と画像分解能というこれまでのトレードオフを覆したように、ひとつひとつ課題を解決し技術を突き進めていくことでさらなるイノベーションが起こり、診療の質が上がっていくことに期待しています。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
*AiCEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

一般的名称 超電導磁石式全身用MR装置
販売名 MR装置 Vantage Elan MRT‒2020
認証番号 225ADBZX00170000
類型 Vantage Gracian