最新の1.5テスラMRI装置への更新理由と想定する臨床・運営的効果




社会福祉法人 同愛記念病院
放射線科部長 脇田俊彦
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要旨:同愛記念病院では、キヤノンメディカルシステムズ社製の最新1.5テスラMRI装置「Vantage Orian」を導入しました。同装置は、1.5テスラ装置でありながらディープラーニングを用いた高画質化技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(以下、AiCE)」が搭載されていることで、3テスラ装置に匹敵する画像化が実現しており、想像以上の画質を得ることが可能です。また、当院のMRI装置には、旧機種の時から磁気シールドにパネル工法が採用されており、そのために、わずかな補修で既存シールドの流用が可能でした。結果、工事費用を抑えることができ、かつ工事期間の短縮化につながりました。本稿では、同一メーカーの最新装置に更新した理由と、同機種で可能となったさまざまな最新技術を紹介します。

最新の1.5テスラ装置への更新の経緯

当院は東京都墨田区に立地する一般病床373床、療養病床30床を有する二次救急指定、臨床研修指定病院であり、都区東部の基幹病院に位置付けられいます。診療科においては、整形外科と泌尿器科が特色を持った診療を行っており、整形外科では主に関節疾患を、泌尿器科では尿路結石から前立腺や尿路腫瘍まで、幅広い診療を提供しています。

MRI装置の検査に関しては、15年前に更新された東芝メディカルシステム(当時)社製1.5テスラ装置1台で、昨年まで年間4500件あまり(うち当日予約の準緊急検査は15%)を施行していました。しかし、検査需要の増加や、PI-RADSやBI-RADSなど標準化された検査精度に追従できないなどの理由から、近隣の画像診断専門クリニックに検査を依頼するケースも多々ありました。そこで数年前から、装置の増設あるいは更新が喫緊の課題となっており、幾通りもの案が検討されましたが、増設には新たな設置スペースがなく、更新に関しては各科からの検査不応期間短縮の要望をクリアできませんでした。
国内外各社の上位機種を比較検討した際、キャノンメディカルシステムズ社製Vantage Orian(図1)の提案は、ひときわ目を引くものでした。まず、3T装置で実用化されていたディープラーニングによる高画質化技術AiCEが、1.5T装置にも搭載可能になったこと、総工事期間は21日で、そのうち正月休日6日間を除くと、実質の検査休止日数は15診療日という短期間工事が可能であることなど、当院にとって大変メリットの大きいものであり、同社案による更新計画がスタートし、無事完了しました。
図1 放射線科スタッフ(後列左から3人目が筆者)とVantage Orian
図1 放射線科スタッフ(後列左から3人目が筆者)とVantage Orian

MRI更新工事期間短縮の要因と概要

MRIの設置工事期間には通常、40日程度を要します。その約半分の期間は、磁気シールド工事に充てられます。従来の築造工法では銅箔を張り巡らし、更新の際には全てやり直しが必要ですが、当院の場合は、従来装置のシールドで既にメーカーの推奨する性能劣化の少ないパネル工法が採用されていました。このため事前調査により、性能劣化は最小で多少の補修のみで流用が可能と判明し、かつシールド性能測定にも耐え得ることが分かりました(図2)。他社製の装置に変更する場合は、劣化の有無に関わらずシールド工事のやり直しは必須ですが、補修のみの約7日に抑えられたことが、今回、全体の工事期間短縮とコストダウンが実現できた要因です。

実際、2019年12月28日(土)14時まで旧MRIを運用した後に工事に着手し、新装置の据付完了日は2020年1月15日(水)、そして同月20日(月)から使用を開始できました。MRIが使用できない日数は、病院休診日を除いて同年1月4日(土)から18日(土)までの、実質15日間で済みました。

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図2 工法の違い

◆Summary
Reasons for updating to the latest 1.5 Tesla MRI system and expected clinical and operational implications

For our new MRI system, we selected“ Vantage Orian” 1.5Tesla MRI scanner (Canon Medical Systems Corporation). One of the two reasons for this choice was that this machine was equipped with advanced noise reduction technology called "AiCE (Advanced intelligent Clear-IQ Engine)", and the other reason was that the construction period could be shortened."AiCE" uses deep learning technology to achieve high quality image from 1.5T system, which equals to 3Tesla MRI image quality.The construction period for renewing MRI system normally takes 40 days, but we were able to reduce it to 21 days. This was mainly because the existing magnetic shield had already adopted the panel construction method.We would like to introduce various new technologies in our new MRI and their clinical values.

装置本稼働前に放射線科が目指したビジョン“MRI+One”とAiCEの関係

当放射線科では、新しいMRIが導入されるとどのような検査が可能となり、当院の診療にどのようなstep upを与えることができるのかをスタッフ一同で考え、ビジョンとして1つの言葉を創造して皆で共有しました。その言葉は“MRI+One”です。

命名の由来を説明すると、今までの装置では検査時間の関係で提供できなかった“+One”の断面やシーケンス、装置性能の関係でなし得なかった“+One”の高分解能画像、また患者さんにより安心して検査を受けて頂くための“+One”の心遣いなど、MRI検査に関わるスタッフ全員が“MRI+One”という言葉を意識して行動することで、よりよい検査、よい診断を行うよう努めています。

その“MRI+One”を実現するためにキーとなる技術が、Vantage Orianに搭載されたディープラーニングを用いた高画質化技術AiCEです。

AiCEは、キヤノンメディカルシステムズが各社に先駆けて全身に対応したディープラーニングによるS/N比の向上技術であり、従来の3T装置に匹敵する画像が得られます。またAiCEでは、ノイズを選択的に除去しSNRを上げることができるため、分解能を維持したまま撮像時間の短縮化も可能であり、高画質化と短時間化を高いレベルで両立することができます。詳細な説明は割愛しますが、以下に簡単に仕組みを説明します。
この技術では、AI(人工知能)の手法の1つであるDeep Learning(深層学習)によって、ノイズの多い画像とノイズの少ない画像との関係性をあらかじめ解析しモデル化させることで、新たに得られた画像からノイズ成分のみを選択的に除去することが可能です。これにより、限られた時間内に高精細な画像が収集可能となります。

また、さまざまなシーケンス、部位、コイル、断面などの組み合わせの教師データをそれぞれ用意する必要がなく、幅広い撮像において適用可能です。当院の場合は、AiCEをほぼ全ての撮像で使用し、高画質と短時間を実現しています(図3) 。

Vantage Orianは、AiCE以外にもさまざまな注目すべき機能や特長を持ち合わせています。その概要を以下に紹介します。
図3 AiCEのありなしの比較データ
図3 AiCEのありなしの比較データ

撮影断面設定の簡略化をもたらす「Fore See View」機能

Vantage Orianは、EasyTechという撮像操作アシスト機能が、操作者による設定の違いを最小限に抑えることが可能であり、検査効率が大幅に向上しています。EasyTechの中でも、結果を予測し確実な検査を実現する「Fore See View」機能は、特に当院のようにMRI検査のスタッフをローテーションで運用している施設にとってメリットのある機能です。

「Fore See View」機能とは、あらかじめ撮像されたデータでリアルタイムにMPR断面を作り、これによりプランニング操作を行う機能。

静音化技術「Pianissimo」機構の概要

さらにVantage Orianには、患者さんからのクレームの多い検査騒音に対して、全ての検査騒音を聴感で約10分の1に抑える「Pianissimo」機構が搭載されています。その効果により、当院では実際にヘッドフォンなし・耳栓なしで検査を行っています。

クラス最大の71㎝のボア径の利点

Vantage Orianのボア径は、従来装置の60㎝と比べて約10㎝広くなりましたが、両装置の開放感の差は明白です。

当院ではプロ・アマ問わず、スポーツ選手や力士のような体格の大きな患者も多く、新たに導入するMRI装置には、ワイドボアは必須の要件でした。さらに、体格の大きな患者でも安定した信号を得るために、送信アンプは2台装備しています。

当院におけるMRIルーチン検査の内容

ここからは、当院におけるVantageOrianでのルーチン検査内容の一部を紹介します。

①頭頸部領域

頭頸部コイルは、チルト機構が搭載された16chコイル(Atlas SPEEDER、ヘッド/ネック)を使用しています。従来装置で使用していた頭部用コイルでは、円背のため仰臥位で水平に寝られない患者さんの場合、腰のあたりにタオルなど入れるなどして対応していましたが、Vantage Orianではチルト機構を使用することで、楽に検査を受けて頂くことが可能となります。

また、閉所が苦手な方に配慮して、コイル前面のコイルを外しての検査も可能です。さらに頸部検査もコイルの交換なしに行うことが可能となり、今までできなかった頸動脈のプラーク撮像などを“+One”検査として実現しています。
②前立腺領域

前立腺領域での検査は、従来装置の時は院外施設へ依頼することも散見されましたが、現在はなくなりました。

Vantage Orianでは、3㎜以下のスライス厚、FOV180㎜、512×512matrixでも良好なS/N比を確保し、歪みのない高b値(b=2000)の拡散強調画像、時間分解能も高いDynamicstudyを得ることができています。さらにAiCEを搭載により、3テスラMRI装置に匹敵する画質が収集されているとの評価を得ています(図4)。

また、取得した複数のb値のDWIデータから、計算によってさらに高b値のDWIを作成するDWI機能を用い、読影補助として使用して効果を上げています。
図4 ルーチン前立腺画像 下左:T 2強調画像(AiCEなし)、下右:同(AiCEあり)。AiCE適用で大幅な SNR向上が得られる。
図4 ルーチン前立腺画像 下左:T 2強調画像(AiCEなし)、下右:同(AiCEあり)。AiCE適用で大幅な SNR向上が得られる。
③躯幹部領域

躯幹部領域で最も多い検査依頼として、MRCP検査が挙げられます。Vantage Orianでは、最新の高速撮像法であるFast3D法を用いることで、大幅な検査時間短縮が可能です。時短により著明となるノイズを、AiCEによって抑えることが可能となることで、短時間・高画質化が実現し、画質も安定しています。
④整形領域

整形領域での検査も前立腺領域同様に、以前に散見されていた院外へ検査依頼がほぼなくなりました。当院では前述した通り、力士や元力士の検査も多々ありますが、AiCEはその際、高画質を実現するために大変役に立っています。

また、AiCEはノイズレベルを5パターン、セッティングすることができます。施設毎に画質の嗜好や装置の運用に合わせて撮像プロトコルに組み込んでおくと、撮像後にAiCE処理された画像が描出されます。力士や元力士など、大柄な患者さんの膝を撮像した際には、得てしてS/N不足の画像になる場合がありますが、このS/N不足の画像に対して、AiCEのデノイズレベルを変更することにより、高画質化が可能になります(図5)。

このように、Vantage Orianは撮像シーケンスに依存することなく、フィルタ処理のような感覚で撮像後に自由に使用できるため、トータル的にスループットの向上が期待できます。
図5 AiCEのデノイズの比較データ Storngにすることで画像が明瞭になることが分かる。
図5 AiCEのデノイズの比較データ Storngにすることで画像が明瞭になることが分かる。

MRI運用の将来展望

今後は、これまで実施できなかった臨床科からの検査内容にも、積極的に対応したいと考えています。中でも、特に要望の多い全身MRI検査には対応しなければならないと考えます。ただし現状では、1台のMRI装置で1日平均25名の検査を行っており、スタッフの数や検査枠の問題からも、限界があるのは事実です。そこで、さらなる短時間化や検査効率向上を図るための戦略を模索しているところです。

現在、2022年竣工予定の新病棟建設中で、それに合わせた診療棟の改装計画も動き出し、MRI装置のさらなる増設を検討していますので、その計画が順調に推移するためにも、“MRI+One”のビジョンを今まで以上に意識し、チーム一丸となって今後もより良い検査環境・検査の質・画像を提供していきたいと考えています。

※     ※

脇田俊彦(わきた・としひこ)
92年東京医科歯科大学医学部医学科卒。同年同放射線科入局、97年同助手、99年同愛記念病院 放射線科部長。日本医学放射線学会画像診断専門医。

本ページは臨床2020年Vol.51 No.14に掲載されたものです。
一般的名称 超電導磁石式全身用MR装置
販売名 MR装置Vantage Orian MRT-1550
認証番号 230ADBZX00021000
一般的名称 MR装置用高周波コイル
販売名 Atlas SPEEDER ヘッド/ネックMJAH-177A
認証番号 227ADBZX00011000

「Vantage Orian」、「AiCEマーク」、「Pianissimo] は、キヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。