新型3T装置増設の所為と整形外科病院における有用性
~AI再構成技術の効果も含め~




福岡整形外科病院
放射線科科長 香月伸介
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要旨:福岡整形外科病院では2019年に3TのMRIを増設し、臨床において検証を行った。同装置は高精細な画像を短時間で撮像でき、小さなFOVにおいて力を発揮するため、導入メリットは整形外科領域でも大きかった。また、同装置のAIによるノイズ低減技術は、期待以上のものであった。

整形外科病院におけるMRIの役割

医療の臨床現場において、1つの検査結果だけで診断を下し治療方針を決定することはありません。問診、触診、X線、MRI、CT、血液検査、エコーなどの情報をもとに総合的に判断しますが、整形外科領域においてMRI検査に求められるものとして、膝関節であれば半月板、軟骨、靱帯の評価、炎症、骨壊死、腫瘤の検索。脊椎であれば椎間板、脊髄、脊椎の評価等が挙げられます。どれも特別な検査ではありませんが、それらは多くの患者さんが日々感じる痛みの原因であり、診断には欠かせない重要な情報です。臨床に有意義な新しいコントラストを検査画像に求めることも大切ですが、日々のMRIルーチン検査において、必要十分な情報を短時間で提供することも、重要な検査要件の1つだと考えます。

福岡整形外科病院の現況と3T・MRI導入の経緯

福岡整形外科病院は福岡市南区に位置する病床数175床の整形外科単科病院であり、常勤医師として整形外科医15名および麻酔科医2名、診療放射線技師が8名在籍しています。1日の外来患者数は平均220名、手術件数は年間約2000例であり、うち人工関節の手術が約400件を占めています。他にも骨折などの急性症例はもちろんのこと、前十字靱帯再建術や高位脛骨骨切り術、腰椎後方固定などの手術も行っています。

また、当院はスポーツ医療にも積極的に関わっており、Jリーグのアビスパ福岡にはチームドクターとして試合にも帯同し、医療サポートを行っています。一方で2018年からは、再生医療である筋、腱、関節内へのPRP(Platelet-Rich Plasma)と呼ばれる多血小板血漿注入療法や関節内自家骨移植療法を導入し、椎間板内酵素注入法(ヘルニコア)での腰椎ヘルニア治療にも取り組んでいます。
このような診療状況を背景に、MRI装置については、2006年から稼働している1.5T装置に加えて、キヤノンメディカルシステムズ社製の3T装置「Vantage Galan 3T/Focus Edition」(図1)を増設し、2019年12月から2台体制での運用が始まりました。

増設前のMRI検査数は450検査/月程度で、ほぼ全例が整形外科領域であり、うち約半数を膝関節が占めていました。膝関節のルーチン検査は、画質担保を目的に30分かけて半月板、靱帯、軟骨を撮り分けており、毎日20時過ぎまでMRIを稼働させても、2~3週間先にしか予約が取れないという状況でした。そこで、検査の質を落とさずに待ち時間を短縮したいという当院執行部の意向もあり、更新ではなく増設を行ったという背景があります。

また、今回の3T装置導入には、検査のスループット向上はもちろんのこと、手術件数が多く、再生医療にも取り組んでいる当院の診療スタンスとして、より高精細な画像で診断を下し、治療に繋げていきたいという理由もありました。
図1 「Vantage Galan 3T/Focus Edition」と放射線科スタッフ
図1 「Vantage Galan 3T/Focus Edition」と放射線科スタッフ

当院での1.5Tと3Tの使い分け

当院では、施設基準を満たさないがゆえに1.5Tと3Tの診療報酬が同じになってしまうという事情から、純粋に画質の差、装置の得意・不得意で装置の使い分けを行っています。

具体的には、resolutionが1㎜程度になる脊椎などでは、1.5Tと3Tの画質の差が出にくいため、検査枠が空いている装置を使用しますが、FOVが小さくresolutionが0.5~0.3㎜程度になる部位(肩、肘、手指関節、膝、足関節)についてはSNRが高い3Tを優先します。体格の大きなサッカー選手などの大腿部肉離れを評価する際には、FOVを広げても画像の歪みが少ない1.5Tを選択していますが、時短に配慮して検査を行いたい場合の選択装置は3Tであり、閉所恐怖症の方でもオープンボアである3Tなら検査できることも数多く経験しました。
3Tは、1.5Tより金属アーチファクトが出やすいとされていますが、「Vantage Galan 3T /Focus Edition」のそれは思ったより大きくありませんでした(図2)。しかし、腰椎後方固定後の横断像は、磁化率の影響の少ない1.5Tの方が適しており、金属の発熱リスクも考慮して1.5Tを選択しています。また、3TではT1緩和が延長されるため、T1強調画像でのコントラスト不足を危惧していましたが、実際には特に違和感もなく、脊椎の検査でも意識することはありませんでした。むしろ、頸椎オーダーに対してはコイル感度領域の広さや検査時間が短いことから、3Tを選択する場合も少なくありません。

良い意味で意外だったのは、3Tのウィークポイントとしてよく挙げられるモーションアーチファクトがあまり気にならなかったことです。理由としては、後述するAI再構成技術の導入によりSNRが担保されるため、バンド幅を広げることと検査時間の短縮を実現できたためだと考えています。結果、時間延長やコントラスト変化が懸念される体動補正技術を使用せずにシーケンスを組み立てて、検査に臨むことができています。
図2 手術後金属アーチファクト症例
図2 手術後金属アーチファクト症例
その他、アートメイクなどの刺青、リスクのある患者さんや、ベッド移動が必要な患者さんについては(1.5Tは着脱式の寝台であり、移乗する回数が少なくなることから)、よりリスクの少ない1.5Tを選択しています。

なお、当院では3Tと1.5Tは違う装置であるという考えのもと、両装置でシーケンスを無理に揃えるようなことはしていません。

AIを利用した画像再構成の有用性

高精細画像と短時間撮像は相反する要素であるため、今までは「3Tは1.5Tよりも高精細だが、検査時間は変わらない」のが常識でした。しかし、今回導入したVantage Galan 3T / Focus Editionには、AIを利用した画像再構成技術「Advancedintelligent Clear-IQ Engine(以下、AiCE)」が搭載されているため、AiCEでノイズを除去することにより、「1.5Tよりも高精細で検査時間も短くする」ことが可能となっています。実際、当院で臨床に採用しているシーケンスも、従来よりも高精細に条件設定をしているにも関わらず、撮像時間はほぼ1/2に短縮されています。1分弱から2分程度で多くのシーケンスを構築することができたことは、追加撮像する機会の多い整形外科領域の検査において、心理的な負担が少なく、とてもありがたいと感じています。

余談ですが、今回、キヤノンメディカルシステムズ社製のMRIを選択した理由として、2年程前の勉強会で、開発中であったAiCEの画像を見て、「あんなに綺麗な画像が撮れる日が来るんだ…うらやましい」と感じていたことに加え、愛媛の市立大洲病院で勤務されている大下技師から提供して頂いた同社製1.5T装置「Vantage Orian」の画像が好印象であったことが大きかったのですが、実際に臨床で使用してみて、AiCEは期待以上のノイズ除去能力を持っていることが確認できました。

AiCEの臨床使用経験の感想

あくまでも主観ですが、AiCEを使用しての印象は、シンプルに「凄く良い」です。トレードオフが少なく単純にノイズを除去できるメリットはとても大きく、同社がいち早くAIを画質改善に適用したのは慧眼だったと個人的には思っています。本稿のテーマからは外れますが、同時期に導入した同社製320列CT「Aquilion ONE」に搭載されているAiCEも、大幅に被ばくを低減できるため、導入して良かったと日々実感しているところです。

MRIのAiCEに話を戻すと、まず検査時間を短縮できるため、患者さんの負担が減ります。例えば足趾の骨髄炎を目的とする検査において、FOVを12㎝に設定しても30秒ほどで高精細な画像が撮れるため、今までのMRI検査の概念が一変しました(図5) 。

このように、現在はもともとSNRに余裕のある3TにおいてAiCEの効果を実感していますが、一方で画質的にもう少し時間を短く設定できるのではないかと思っても、加算回数もマトリクスもこれ以上は追い込めないという事例もしばしば経験します。その意味では、SNRの面で不利な1.5Tでこそ、AiCEは真価を発揮するのかもしれません。今回は見送った既存1.5TのAiCE搭載装置への更新が、今から本当に楽しみです。
図5 短時間撮像症例(16ch送受信Knee SPEEDER)
図5 短時間撮像症例(16ch送受信Knee SPEEDER)

整形外科単科病院に3Tは必要か?

1.5Tは、静磁場の均一性に優れることからFOVを広く設定でき、シーケンスの制限や金属アーチファクトが少ないなど、全般的に不得意なところが少なく、リスクのある患者さんに対してもより安心して検査することができます。こうした事情から考えると、1.5Tのオールマイティな能力は魅力的であることは間違いありません。

しかしそれでも、高精細でSNRの高い3Tの画像は1.5Tが持ち得ない特別な底力を備えていますし、整形外科領域では目的部位が小さいことが多いため、3Tの良さがより際立ちます。したがって、条件付きではありながら、整形外科単科病院でも3TのMRIは必要であると考えます。これからも整形外科単科病院ならではの使いこなし方を模索しながら、臨床に役立つ情報を提供していきたいと思っています。

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香月伸介(かつき・しんすけ)
94年九州大学附属医療技術短期大学卒。同年福岡整形外科病院入職、現在、同院放射線科科長として勤務。

本ページは新医療2020年6月号に掲載されたものです。
一般的名称 超電導磁石式全身用MR装置
販売名 MR装置Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号 228ADBZX00066000
一般的名称 MR装置用高周波コイル
販売名 16ch 送受信Knee SPEEDER MJAJ-232A
認証番号 227ADBZX00151000
一般的名称 MR装置用高周波コイル
販売名 16ch フレキシブルSPEEDER M MJAJ-212A
認証番号 226ACBZX00041000
一般的名称 MR装置用高周波コイル
販売名 16ch フレキシブルSPEEDER L MJAJ-222A
認証番号 226ACBZX00042000
一般的名称 超電導磁石式全身用MR装置
販売名 MR装置Vantage Orian MRT-1550
認証番号 230ADBZX00021000
一般的名称 全身用X線CT診断装置
販売名 CTスキャナAquilion ONE TSX-305A
認証番号 227ADBZX00178000

「Vantage Galan」、「Vantage Orian」、「Aquilion」は、キヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。