AI技術搭載MRIの導入がもたらすインパクト
~病院のキーモダリティとしての期待~



独立行政法人 地域医療機能推進機構 東京高輪病院
院長 木村健二郎
放射線科 部長 天羽 健
診療放射線室 副診療放射線技師長 小竹 学
sou木村院長
要旨:独立行政法人 地域医療機能推進機構 東京高輪病院(以下、当院)は開院以来、急性期病院として機能し、「地域密着型の病院として、安心安全な医療を提供していく」を軸に、時代のニーズに沿った運営を推進してきた。今回、医療の質をより高め、かつ患者さんの負担を軽減すべく、既存の1.5テスラMRIから3テスラMRIへの更新に踏み切った(2020年3月稼働開始)。本稿では更新後のMRI装置の有用性と期待、そしてディープラーニング応用画像再構成技術がもたらすインパクトについて報告する。

当院の沿革と目指す医療提供の方向性

1951年5月19日、渋谷区南平台にて、当初は船員のための職域病院としてスタートした当院は、現所在地である東京都港区へ移転後、2014年4月から独立行政法人 地域医療推進機構(JCHO:Japan Community Health Organization)へ移行し、「JCHO東京高輪病院」として新たなスタートを切った。

JCHO移行後は地域医療の要となるべく、さまざまな取り組みを実施してきた。以下にその概要を紹介する。

①既存の急性期病棟の一部を地域包括ケア病棟へ機能転換し、急性期機能と回復期機能の両輪で安心して暮らせる地域作りに貢献している。
②「医療連携・患者支援センター」を設立し、近隣の医療施設・介護施設と連携して円滑な入退院を支援している。
③「国際部」を立ち上げ、増加する外国人受診者の積極的な受け入れを実施している。ジャパン インターナショナル ホスピタルズ(JIH:期間2016年12月~2019年11月)の推奨や、外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP:2017年3月~2020年2月)に認定されるなど、評価を受けている。
④「たかなわ訪問看護ステーション」を設立し(2018年)、かかりつけ医との密な連携による地域医療の質向上に貢献している。
組織としても、従来の専門分化した診療科に加え、総合内科や感染症診療といった横断的な診療、さらに栄養・呼吸・嚥下・認知症等の各種サポートチームなどによる診療支援の充実を図った体制を整備した。また、医師間・診療科間・多職種の連携を強化し、幅広い疾患・病態を安全に診療する体制の構築を目指している(図1)。
図1 東京高輪病院の外観

当院の課題を解決するMRI装置の要件

一般にMRI検査は低侵襲で多くの情報が得られるのが特長であり、前述したような幅広い疾患・病態の診断を目指す当院では、大変重要な意味を持つ。しかし、ここ数年は検査数の減少が続いており、病院の経営上の課題にもなっていた。実際、2004年に導入した既存装置は使用年数も経過しており、多様化する検査ニーズへの対応が困難であった。そこで更新時には、MRI検査数の増加を課題として、特に次の2つの条件を重視した。

医療の質向上:全身で安定した高画質を短時間で得られること。
他院にない付加価値:従来とは一線を画す快適な検査環境を提供し、当院の評判を向上させること。

なお、磁場強度を3テスラとした理由は、高精細画像を短時間で取得可能であることに加え、「3テスラという磁場強度の持つインパクト」に期待したためである。
昨今、被検者の医療機器に対する関心・知識は飛躍的に向上しており、自身の検査で使用される装置のスペックを検査担当者へ質問する方も少なくない。そのような背景から、当院では「3テスラ装置で検査を受けられる」こと自体が、被検者の満足、ひいては病院の評判につながると確信した。もちろん、MRIについて知見のある医療関係者に対するインパクトは言うまでもない。

これらの観点から検討を重ねた結果、導入した装置が「Vantage Galan 3T / Focus XG Edition(以下、Focus XG:キヤノンメディカルシステムズ社製)」(図2)である。Focus XGは、前述した2つの条件を高い水準で満たし、「検査数の増加」を促進するためのキーテクノロジーを多数搭載している。

中でも目玉となるのが、ディープラーニング応用画像再構成技術である。ディープラーニングやAIと聞くと、従来はCAD等の読影補助を思い浮かべていただろうが、ついに画像再構成に応用される時代が到来したのである。
図2 木村院長(前列中央)と放射線科スタッフ(Vantage Galan 3T / Focus XG Editionの前にて)

AIを用いた画像再構成技術の特長と利点

ディープラーニング応用再構成技術である『Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)』は、従来のMRIでは常識とされていた「短時間」、「高分解能」、「高SNR」のトレードオフの関係を、高いレベルで打破することが可能である。入力画像としてあえてノイズが目立つ条件(高分解能かつ積算回数を1回)とした画像、教師画像として同条件で積算回数を十分に増やした(10回以上)画像を用いて、ノイズ成分をディープラーニングで学習させる。このようにして構築されたニューラルネットワークを、デノイズ再構成へ応用することで、画像のノイズ成分のみが除去可能となる(図3)。
図3 AiCEによるSNR向上効果の例(2D T2WI前立腺にてスライス厚1mmで撮像) 観察に十分なSNRを確保しつつ、2DながらMPRによる多断面からの観察も可能。

「東京高輪病院ならでは」のMRI検査

MRIの原理から考えれば、磁場強度の向上に伴う画質の向上や撮像時間の短縮は「当然」と言っても過言ではない。そこで今回の装置更新では、検査環境にも徹底的にこだわり、当院のイメージアップにも一役買ってもらえる要件を選定条件に据えた。「暗い、狭い、うるさい」、これらはMRI検査の代表的なネガティブイメージであり、閉所恐怖症の方でなくとも決して気分の良いものではない。Focus XGに搭載されているMRシアターは、その解消に貢献する。MRシアターとは、寝台と一体となって動くドーム状のスクリーンを配置し、専用プロジェクターでスクリーンに投影した映像を、顔前のミラーを通して見ながら検査を受けられる技術である。

本技術の特長は、「被検者が検査前から奥行きのある映像を見られる」という点である。検査前の目の前に映像が広がっている状態を保ったままトンネルの中に入っていくため、「これから狭い空間に入っていく」という被検者の恐怖感・閉塞感を大幅に低減してくれる。さらにドーム状のスクリーンで投影映像に奥行きを持たせるため、非常に開放感のある検査空間を提供可能である。

Focus XGの稼働開始前の期間中、当院スタッフの60名ほどがMRシアターを体験した。スタッフ各々が実感することで、被検者への説明に説得力が増し、検査前の不安緩和に役立っている。また近隣施設の先生方にも体験していただき、大変好評であった。当院スタッフと同様、ご自身の患者さんへ説得力を持って当院をご紹介いただけると確信している。
さらにFocus XGでは、この「仮想的な」開放感だけではなく、実際の検査空間も拡大されている。 Focus XGの患者開口径は71㎝であり、既存装置よりも11㎝広くなった。大開口径装置は、閉塞感の低減やオフセンター部位を磁場中心へ近づけることによる画質向上等、さまざまな検査体位に対応可能である点などがメリットとして挙げられるが、それは外国人被検者を積極的に受け入れている当院の実情にもマッチしている。外国人の方は当然、日本人に比べ体格の良い被検者が多く、既存装置では検査不可、もしくは無理な体勢を強いて実施していたが、Focus XGではゆとりのある空間にて検査を実施可能である。

被検者がMRI検査にどのような印象を抱くかの分かれ道は、撮像室に入室した時から始まっている。そこで当院では、「東京高輪病院の」MRI検査のイメージアップを目的に、装置だけでなく撮像室の内装にもこだわった。「高輪」という土地から醸し出される高級感と、落ち着いた空間を演出するために、青と白を基調としたデザインを採用した。さらに、MRシアターとの相乗効果で、よりリラックスして検査を受けていただける空間を実現した(図6)。

また、3テスラへの更新は原理的に騒音の増大も伴うため、静音技術も重要となる。当院では、既存装置もキヤノンメディカルシステムズ社製であり、同社の特許技術である「Pianissimo」は、全検査対応の静音技術として以前から高く評価していた。Focus XGにはさらに、ソフトウェアによる静音化も加わった「Pianissimo Zen」が搭載されている。したがって、懸念事項であった騒音もクリアしており、シーケンスによっては既存1.5テスラ装置よりも静かな検査音で撮像可能な点には驚いている。
図6 MRI撮像室内 各照明の調節でさまざまな雰囲気の空 間が演出可能

Focus XGにより“さらに身近な高輪病院”へ

本稿では、当院のMRI装置とその運用が抱えていた課題と、それを解決するFocus XGの特長および実際について述べた。Focus XGは、AiCEによる高画質・短時間化の効果で臨床的な価値を高め、MRIの常識を覆すMRシアター等の検査環境により、当院のイメージアップを図ることができる、まさに病院の「顔」となる装置である。

今後の構想として、当院と地域の診療所、クリニックとの間で、検査予約や画像閲覧がオンラインで可能となるシステムを導入して、病診連携ネットワークをさらに強化し、より一層高いレベルでの「地域に根差した病院」の実現を目指している。Focus XGは、その実現のためのキーモダリティであると確信している。

また、最新装置を導入したことによって、放射線科現場スタッフのモチベーションも大きく向上しているのが感じられる。今後とも、診療に携わる先生方、そして患者さんへ貢献できるよう、スタッフ一丸となって取り組んでいきたい。

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木村健二郎(きむら・けんじろう)
74年東京大学医学部医学科卒。81年デンマーク、コペンハーゲン大学医学部病理学研究所留学、97年東京大学大学院医学系研究科・腎臓内科学講師、01年聖マリアンナ医科大学腎臓高血圧内科学教授、11年同大学附属病院副院長(兼任)、14年独立行政法人 地域医療機能推進機構 東京高輪病院院長、18年同機構 東日本地区担当理事。

本ページは新医療2020年6月号に掲載されたものです。

※記事内容にはご経験や知見による、ご本人の意見や感想が含まれます。
※「Vantage Galan」、「Pianissimo」、「AiCEマーク」はキヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。
※AiCEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有していません。

一般的名称 超電導磁石式全身用MR装置
販売名 MR装置Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号 228ADBZX00066000

「Vantage Galan」、「Pianissimo」、「AiCEマーク」は、キヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。