画像診断領域におけるAIはココまで来ている│CLINICAL REPORT

ディープラーニングを用いたノイズ除去再構成技術「AiCE」が臨床に与えるインパクト

さいたま市立病院 中央放射線科
佐藤吉海
近年、AI技術の医療への応用が急速に進む中、MRIにおける新しいSNR向上技術として“Deep Learning Reconstruction(DLR)”が注目されている。キヤノンメディカルが開発したDLR技術である「AiCE」は、MRI画像のノイズ成分を識別し選択的に除去できる上に、汎用性が高く全身の様々な撮像に適用可能な画期的な技術であり、臨床に極めて大きなインパクトを与えている。

In recent years, AI technology has been rapidly advancing as medical application. "Deep Learning Reconstruction (DLR)" is attracting attention as a new SNR improvement technology for MRI.“ AiCE”, the DLR technology developed by Canon Medical, can identify and selectively remove noise components from MRI images. Furthermore, it has high versatility and can be applied to various imaging of the whole body. Therefore, AiCE has a great impact on clinical practice.

世界初! AiCE搭載のMRI装置が臨床機として稼働開始!

昨年12月にオープンした新病院に、デ ィープラーニングを用いたノイズ除去再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を搭載したキヤノンメディカル社製の3T MRI装置「Vantage Galan 3T/Focus XG Edition(以下、Focus)」(図1)と1.5T MRI装置「Vantage Orian/ X Grade(以下、Orian)」が稼働を開始した。AiCE搭載のMRI装置が臨床機として稼働するのは本病院が世界で初めてである。

近年、AI技術の医療への応用が急速に進む中、MRIにおいては“Deep Learning Reconstruction(DLR)”が新しいSNR向上技術として注目を集めている。MRIにおけるSNR向上の歴史は、RFコイルの多チャンネル化や磁場強度の高磁場化により達成されてきたが、DLRはこれらに匹敵するSNR改善効果を示すことから、今後MRIの性能を語る上で欠かせない技術となっていくことが予想される。DLRは、ディープラーニングによりノイズを学習させたネットワークを活用し、低いSNR の画像からノイズを除去し高いSNRの画像に再構成できる技術である(図2)。キヤノンメディカルはいち早くDLR技術の開発に取り組み、2018年3月から順次、熊本大学やボルドー大学など国内外の複数の大学と臨床評価を進めてきた。その成果として、キヤノンメディカルが世界で初めてMRI装置に製品搭載したDLR技術が「AiCE」である。

AiCEは、MRI画像のノイズ成分を識別し選択的に除去できる上に、汎用性が高く全身の様々な撮像に適用可能であり、これまでのMRI検査の概念をブレイクスルーするような画期的な技術である。本稿では、当院におけるAiCEの使用経験を提示し、臨床に与えるインパクトについて述べる。
AiCEは、ディープラーニングによって、ノイズの多い画像とノイズの少ない画像との関係性をあらかじめ解析しモデル化させている。そして、モデル化されたネットワークを再構成に活用することで、検査で得られた画像からノイズ成分のみを選択的に除去することが可能だ。一般的なスムージングフィルタとAiCEのノイズ除去特性の違いを図3に示す。SNRを向上させる一般的に用いられているスムージングフィルタは、ノイズ除去に伴う画像の劣化が大きく、画像がボケる傾向にあるため、オリジナル画像との差分においては実質信号の大きな変動が観察される。一方、AiCEでは、差分画像においてノイズ成分のみが観察されており、画素値自体はほとんど変動していないことがわかる。このように、画像を劣化させることなく、ノイズのみを選択的に除去しSNRを向上できる点が、これまでの技術にはないAiCE独自のメリットである。
図3 AiCEによるノイズ選択除去の実現
では、AiCEによりどの程度のノイズ除去効果を得られるのか? 一例として、頭部高分解能撮像にAiCEを適用した画像を図4に示す。MRIでは撮像時間と分解能、SNRにはトレードオフの関係があり、分解能向上のために収集マトリックスを増加させるほど撮像時間は延長し、SNRは低下する。通常、観察可能な1024×1024マトリックスの高分解能画像を得るには、加算回数(以下、NAQ)10で17分程度の撮像時間を要するが、1回加算の画像にAiCEを適用すれば10回加算相当のSNRが短時間で得られる。キヤノンメディカルによるファントム検証では、AiCEにより最大3.2倍のSNR向上効果を得られることが示されており、理論上NAQ10相当のSNRとよく一致する。なお、1.5Tと比較した3TのSNRが理論上2倍であることから、1.5TにAiCEを適用することで3Tを超えるSNRを得られるポテンシャルがあると言える。
図4 AiCEによる高いSNR改善効果
MRI画像診断領域で、AiCEは臨床検査にどのような影響を与えるのか? MRI検査で得られる画像で読影支援から求められることは主に高精細画像である。高精細画像は、微小病変の描出能の向上など読影で得られる情報が増加するメリットがあるが、一方で低下するSNRを補うために撮像時間が長くなるデメリットがある。また同時に、検査を行う現場では検査の効率化が求められており、撮像時間を短縮することで検査数を増加させたり患者の負担を軽減できるが、一方でSNRを保つために面内分解能やスライス厚を犠牲にすることがしばしばある。このように、MRIにおいて高精細と短時間はトレードオフの関係にあり両立が難しいことが一般的である。この問題に対して、parallel imaging、multiband、compressed sensingなどの高速撮像技術があるが、どの技術も短時間化による鮮鋭度やコントラストの低下などの画質劣化が少なからずあり、画質を担保した高精細と短時間の両立は難しいと言われている。これに対してAiCEは、前述のとおり、信号値やコントラストを担保したままSNRを向上できるため、画質を維持した高精細と短時間の両立を高い次元で実現できる。つまり、AiCEはMRI検査におけるトレードオフを根本から覆し、臨床ではこれまで難しかった高精細かつ短時間のMRI検査を実現する画期的な技術である。

今回導入した2つの新装置の使い分けとして、Focusでは“撮像時間を延長させない高精細化”を、Orianでは“画質を担保した短時間化”を主な目的としてAiCEを活用している。次項からは、実際にAiCEの活用が有用であった症例を3Tと1.5Tに分けて供覧する。

1.“撮像時間を延長させない高精細化”で確信が持てる診断を支援 @Focus(3T)

3T装置のFocusにおいては、主に“撮像時間を延長させない高精細化”のためにAiCEを活用しており、より確信を持てる読影を支援している。図6は、もやもや病の疑いで長年フォローしていた症例だが、AiCEを活用した高精細MRA画像によりもやもや血管を同定でき、もやもや病の確定診断がついた例である。撮像時間は延長させずに高精細化しているためMRA原画像においてノイズが目立つが、AiCEの再構成を施した画像ではノイズが除去され細かいもやもや血管の視認性が向上している。図7は、左環指末梢にグロムス腫瘍を疑う腫瘤がみられた症例だが、環指にFOVを絞った撮像にAiCEを組み合わせることで、SNRが担保された小FOVの画像を得られており、指先の病変でも読影がしやすい画像を提供できている。また、図8の前立腺癌疑いの症例では、撮像時間はそのままで面内分解能を向上させAiCEを併用したことで、前立腺癌と肥大結節の鑑別に重要な被膜が明瞭になっている。図9の症例では、前立腺癌の診断のため造影DynamicStudyを実施したが、各時相の画像にノイズが目立ったためAiCEを活用したところ、ノイズが除去され病変部のコントラストや視認性が向上した。また、特筆すべき点は、腫瘍部のDynamicカーブに示されているように、信号値がほぼ変動していないことである。このことから、AiCEはノイズのみを選択的に除去し、重要な信号値自体は変えていないということが分かる。以上のように、AiCEを用いることにより、撮像時間の延長や画像の劣化を伴わずに高精細画像を得ることができ、より読影がしやすい確信の持てる診断画像を提供できる。

2.“画質を担保した短時間化”で検査の質と効率化を両立 @Orian(1.5T)

1.5T装置のOrianにおいては、AiCEの活用により“画質を担保した短時間化”が実現できており、検査の質と効率化の両立を実現している。図10の症例では、分解能など画質を担保したまま骨盤部のルーチン検査をトータルで半分以下の時間で検査ができている。また、図11の症例では、圧縮センシング技術である“Compressed SPEEDER”とAiCEを併用することで、分解能を高めつつ更なる短時間化を実現し、さらに患者の動きの影響を低減する効果も得られている。また、図12の症例では、高速3D撮像のFast 3DとAiCEを組み合わせることで、20秒の1回息止めで診断可能な3D MRCPの画像が得られており、大幅な時間短縮を実現できている。加えて、令和2年度診療報酬改定により新たに加算が追加された“全身MRI撮影”においてもAiCEの活用が有用であり、撮影範囲が広いため検査時間が長くなる傾向にある全身MRI撮影を短時間化できるメリットは大きい(図13)。以上のように、AiCEを用いることで画質を担保=診断能は落とさずに検査効率を大幅に引き上げることができ、臨床に与えるインパクトは大きくなっている。

さいごに

本稿では、当院におけるAiCEの使用経験を提示し、臨床に与えるインパクトについて述べた。当院ではAiCEの活用範囲をさらに広げていくことで、これまでSNRの制約により諦めていたMRI検査を実現し、より質の高い画像診断の提供を目指していく予定である。また、今後のMRI検査に求められる解析画像に対してもAiCEの活用が可能なことから、DTTなどの解析精度向上にも期待をしている。本稿で述べたように、AiCEは3Tおよび1.5Tで共に有用であり、画質劣化を伴うことなく高いSNR改善効果を得られる上、汎用性が高く全身の様々な撮像に適用可能なため、今後MRIに欠かせない技術の1つとして普及していくと考えている。AiCEの臨床における活用が今後どのように広がっていくか今から楽しみである。

<文献>
1) Kidoh M et al: Deep learning based noise reduction for brain MR imaging. tests on phantoms and healthy volunteers.
Magnetic Resonance in Medical Sciences: doi:10.2463/mrms.mp.2019-0018,2019
2) Yokota Y et al: Effects of Deep Learning
Reconstruction Technique in High- Resolution Non-contrast Magnetic Resonance Coronary Angiography at a 3-Tesla Machine. Canadian Association of Radiologists Journal: doi:10.1177/084653 7119900469,2020

本ページはRad Fan Vol.18 No.6(2020)に掲載されたものです。
一般的名称超電導磁石式全身用MR装置
販売名MR装置Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号228ADBZX00066000
一般的名称超電導磁石式全身用MR装置
販売名MR装置Vantage Orian MRT-1550
認証番号230ADBZX00021000
一般的名称MR装置用高周波コイル
販売名Atlas SPEEDER ヘッド/ネックMJAH-172A
認証番号227ADBZX00152000

「Vantage Galan」、「Vantage Orian」、「AiCEマーク」は、キヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。