Canon Clinical Report 07
HIT Abierto Reading Support Solution

マルチベンダーによる読影環境で画像解析アプリケーションを活用し骨転移の見逃しリスクを低減

解析進捗・結果の確認を容易にするAP Widget機能がスムーズな読影をサポート

東北大学病院

東北大学病院(1160床)は、東北地域における医療の要として、先進・高度医療の提供や開発、医療人材の育成に取り組んでいる。放射線診断科ではマルチベンダーの読影環境を構築し、PACSの更新に合わせて2023年5月よりキヤノンメディカルシステムズの読影支援ソリューション「Abierto Reading Support Solution(Abierto RSS)」の本格稼働を開始。体幹部CT検査では、AI技術を用いた骨経時差分処理「Temporal Subtraction For Bone」の解析結果を骨転移読影に活用している。2024年のバージョンアップで使い勝手や精度が向上したAbierto RSSの有用性や運用に合わせたシステム構築について、放射線診断科の青木英和助教と山崎哲郎助教に取材した。

専門性の高い読影で東北地域の画像診断を支える

1817年に創設された仙台藩医学校施薬所を源流とする東北大学病院は、長い歴史の中で時代の要請に応える医療を提供してきた。2024年5月には医療を取り巻く環境の変化を踏まえ、病院理念を「先進の医療を優しさとともに」に改訂。決意を新たに、特定機能病院や臨床研究中核病院として先進・高度医療の研究開発と提供、そして高度な医療人材の育成を推進している。
青木英和 助教
同院の放射線診断科は、放射線診断専門医24名と専攻医13名という体制で画像診断とIVRを担っている。また、多くのスタッフが関連病院に出向しているほか、他施設の画像読影(出張/遠隔)も行い、東北地域の画像診断を支えている。院内検査の読影については、CT・MRIと核医学で専門を分け、さらにCT・MRIの中でも頭部と体幹部で読影担当を分けることで専門性の高い画像診断を提供しているのが特徴だ。
山崎哲郎 助教
診断用CTは、キヤノンメディカルシステムズのADCT「Aquilion ONE / ViSION Edition」と高精細CT「Aquilion Precision」、他社製2台の計4台が稼働する。1日に約180件の検査が行われ、このうち100件程度が体幹部の撮影となっており、青木助教と山崎助教、ほか数名の放射線診断専門医が中心となって読影している。体幹部のCT検査・読影の状況について青木助教は、「肺炎や良性疾患のフォロー、救急外傷などもありますが、悪性腫瘍の術前検査や術後のフォローアップが7~8割を占めています。専攻医のレポートチェックも含めて読影医によっては1日に40~50件読影する場合もあるため、読影の質が低下しないように努めています」と説明する。

柔軟に運用できるAbierto RSSでマルチベンダーの読影環境を構築

同院では、2022年の診療報酬改定で画像診断管理加算3の施設基準にAIを用いた画像診断補助ソフトウエアに係る管理が追加されたことを受け、キヤノンメディカルシステムズのAbierto RSSを導入し、2023年5月のPACS更新に合わせて本格運用を開始した。Abierto RSSは、モダリティから解析用サーバ「Automation Platform」への画像送受、AIを活用した各種画像解析アプリケーションの実行、解析結果のPACSへの送信を自動で行うソリューションで、現場の作業負担なくAIアプリケーションの臨床活用を可能にする。解析結果は専用ビューワ「Findings Workflow」を用いることで統合的かつ最適なレイアウトで参照でき、修正・所見追加も行える。また、さまざまな運用に合わせて柔軟に構成できることもAbierto RSSの特徴で、キヤノンメディカルシステムズ社製に限らず他社のPACSや読影ビューワとの連携や、解析結果をPACSに保存しないといった運用も可能だ。
同院では、解析された結果をそのままAutomation Platformに保持し、Findings Workflowで参照する運用としている。レポートシステム(他社製)のワークリストにAbierto RSSの進捗状況を示すステータス欄を設けることで、解析結果の有無を確認できるようにしており、検査に解析結果があれば読影ビューワからFindings Workflowを起動して参照することができる。青木助教は、「Abierto RSSとPACS・レポートシステムは別メーカーであり、読影ビューワも2社のシステムを利用するなど、当院の読影環境はマルチベンダーとなっています。そのような環境でもAbierto RSSは柔軟に他社システムと連携するためAIアプリケーションをスムーズに利用でき、またPACSに解析結果を保存せずFindings Workflowで参照することが可能なため、当院の望む運用を実現できました」と述べる。

CTの骨転移読影を支援するTemporal Subtraction For Bone

Abierto RSSには脳神経領域・腫瘍領域の解析アプリケーションがあるが、体幹部CT画像に適用されるのが骨経時差分処理Temporal Subtraction For Boneだ。Temporal Subtraction For Boneは、CTから受信した今回画像と同一条件の前回画像をPACSから自動取得し、画像から骨を識別、ミスレジストレーションを低減するために胴体と四肢を分離して位置合わせを行った上で差分画像を生成し、CT値上昇部分は水色、CT値低下部分は赤でマッピングされたフュージョン画像が作成される。Findings Workflowでは、過去、今回、サブトラクション、フュージョン、3Dフュージョンが1画面で表示され、変化を一目で把握できる(図1)。
骨転移の読影では全身をくまなく確認する必要があるため、手間と時間を要する。青木助教は、「骨条件にして肋骨や椎体を中心に全体を数回往復して確認した上で、軟部条件でもチェックし、明らかな変化や骨折があれば過去画像との比較を行います。病変の性状や大きさによってはCTでは指摘が難しいケースも多く、骨転移の読影は容易ではありません」と、CTによる骨転移読影の難しさを指摘する。山崎助教は、「悪性腫瘍のフォローアップはCTで行われることが多いため、CTでの拾い上げには大きな意味があります。脊椎の小さな転移を見逃してしまうと、後々脊髄障害を引き起こすといったリスクがあるため、見逃しリスクをいかに低減するかが課題です」と述べる。
Temporal Subtraction For Bone導入後、青木助教らは従来どおり骨転移の読影を行った上で、気になる所見がある場合や骨転移の可能性が高い症例について、解析結果を参照している。青木助教は、「通常の読影に加えて解析結果を確認するため読影時間は増えますが、注目していたところとは別の場所に変化があることに気づくこともあり、見逃し防止に貢献しています。特にサイズの小さい病変や、淡い硬化性変化などの拾い上げに有用です」と言う。

AP Widgetの実装により解析結果参照が簡便化

本稼働から1年が経過した2024年4月、Abierto RSSのバージョンアップが行われ、新たに「AP Widget」が実装された。AP WidgetはFindings Workflowを起動することなく小さなウインドウでAI解析結果を表示する機能で、より簡便に参照することができる(図2)。その有用性について青木助教は、「AP WidgetはFindings Workflowよりも起動が速く(1~2秒)、レポート画面を開いた状態でAP Widgetを開くと、当該患者の解析結果リストだけが表示されるため、より気軽に、スムーズに参照できるようになりました」と述べる。また、山崎助教は、「以前は、解析結果の有無を確認するためにレポートシステムでワークリストに戻ると、読影ビューワも閉じてしまい、読影を再開しようとすると再度読影ビューワを開き、レイアウトの変更や画像の位置合わせを行う必要がありましたが、AP Widgetによりワークリストに戻ることなく解析結果の有無を確認できるようになりました。読影の流れを妨げずに確認できるため、解析結果の参照頻度が以前より高くなっています」と話す。
バージョンアップにより精度も向上し、ミスレジストレーションを原因とするカラーマッピングも低減しており、青木助教は、「ミスレジストレーションが生じやすい骨盤や頸周りは病変を見逃しやすい部位ですが、精度が上がりミスレジストレーションが低減したことで、病変の拾い上げもしやすくなりました」と述べる。
また、青木助教は、有用な機能としてFindings Workflowの自動ラベリング機能を挙げ、「水平断での観察時に肋骨や椎体に病変を見つけた場合には、画像をスクロールして上から数えて番号を確認するため、時間が掛かる上、間違えることもありますが、自動ラベリングは瞬時に確かな番号を確認でき、読影時間短縮につながっています」と有用性を評価する。

使い勝手と精度が向上しさらなる臨床活用を促進

現在は青木助教と山崎助教が主にTemporal Subtraction For Boneを利用しているが、AI解析が有用だった症例を科内で共有し、利用促進を図っていく予定だ。青木助教は、「AP Widgetの実装で使い勝手が向上し、精度も向上しているため、ほかの医師にも積極的に推奨していこうと思います。全体を俯瞰ふかんできる3Dフュージョンの活用など、観察時間を短縮できる方法を探りながら、さらなる見逃し防止の低減に努めていきます」と述べる。
施設の運用に合わせて柔軟に導入できるAbierto RSSが、臨床でのAI技術活用を加速させていく。(2024年5月27日取材)

※AI技術は設計の段階で使用しており、自己学習機能を有しておりません。本システムによる検出結果のみで病変のスクリーニングや確定診断を行うことは目的としておりません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

東北大学病院
宮城県仙台市青葉区星陵町1番1号
TEL 022-717-7000
https://www.hosp.tohoku.ac.jp
一般的名称 汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名 汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI-1AP
認証番号 302ABBZX00004000