Special Contribution

Abierto Reading Support Solutionによる骨転移読影支援

Temporal Subtraction For Bone

檜山 貴志 先生(国立がん研究センター東病院 放射線診断科)

はじめに

悪性腫瘍の転移臓器のなかで,骨は肺や肝に次いで3番目に多く,日常診療においてよく遭遇する病態の一つである。骨転移は疼痛や病的骨折・脊髄神経の圧迫などの有害事象を引き起こし,QOLや生存率の低下につながるため,早期の診断と予防的アプローチが必要である。したがって,CTで早期に骨転移を検出することが重要であるが,骨をくまなく観察する作業は労力を要し,ともすればおろそかになりがちである。近年では異なる日時に撮影されたCTを差分することで骨転移を検出する技術が開発されており,研究ベースでの有用性が多数報告されている1)~7)。本稿では実際に市販されている骨の経時差分処理アプリケーション(Temporal Subtraction For Bone:TSB)がどの程度有用か,実臨床に即した形での評価を行った。

Abierto Reading Support Solution Temporal Subtraction For Bone

TSBはキヤノンメディカルシステムズより販売されている骨の経時差分処理を行うアプリケーションである。このアプリケーションでは過去検査と今回検査の2つのCT画像に骨強調処理を行い骨を識別,位置合わせには線形位置合わせだけではなくLarge deformation diffeomorphic metric mapping(LDDMM)による非線形位置合わせを行うことで生体に起こり得ないような変形を抑制する。最後に離散化の影響によるアーチファクトを除去するためAdaptive Voxel Matching(AdVM)と呼ばれる手法を使用している(図1)。必要となるデータは1~5mm厚のDICOMデータ(自施設では5mmのデータを用いている)であり,日常的に撮影されたCTデータから処理が可能である。実際の画像取得までの手順としては,撮影されたCTデータをAutomation Platformと呼ばれる画像処理サーバに転送するのみで,過去CT画像の選択・取得からサブトラクションの実行,PACSへの転送までを全自動で行うため,作成の手間はほとんどかからない(図2)。読影時は読影端末(Find-ings Workflow)上で,過去画像,今回画像,差分画像,Fusion画像,3D画像の表示がなされる(図3)。3D表示では,骨シンチと同様に全体像を一目で把握することができる。
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図1 サブトラクション処理方法
現在画像と過去画像の骨領域を強調した画像で,線形・非線形位置合わせを行った後に差分処理を行う。
(キヤノンメディカルシステムズ株式会社提供)

読影実験と評価方法(図4)

2021年8月~2022年12月にTSBで処理された担癌症例のうち,20例(骨転移あり15例,骨転移なし5例)を用いて読影実験を行った。評価は放射線診断専門医(S1,S2とする)と放射線診断科レジデント2名(放射線専門医取得前,R1,R2とする)が行った。最初にTSBなしで読影を行い,通常の業務と同様に骨転移に関してのレポートを作成した。特にQOLに影響を与える脊柱管進展があれば必ず記載することとした。また,読影の見落としがないという確信度を5段階(1:非常に低い,2:低い,3:普通,4:高い,5:非常に高い)で評価した(確信度スコア)。1か月以上の期間を空けたのちに症例をランダムに並び替え,TSBを併用して同様にレポートを作成し,読影の確信度スコアおよびTSBの有用性を5段階(1:むしろ有害,2:有用でない,3:なくても同等,4:有用,5:非常に有用)で評価した。読影作業を動画に撮影し,1件あたりの読影時間を測定した。レポートに関してはTSBのありとなしで,どれだけレポートの記載に差が出るかを評価し,指摘している骨転移の個数を比較した。骨転移および脊柱管進展の標準参照は,すべての画像検査(CT,MRI,PET,骨シンチ)や臨床情報をもとに読影実験に関わらない評価者が作成した。
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図4 読影実験の流れ
評価者4名が担癌症例20例を読影した。TSBなしで読影(読影実験1回目)後,1か月以上の期間を空けてTSBありで評価を行った(読影実験2回目)。読影時間,確信度スコア,有用性スコア,レポート内容を評価した。

結果と考察

① 読影時間(表1)
読影時間はTSBありの場合,評価者S2,R2で統計学的有意差をもって短縮した(平均で約80秒の短縮)。一方で,S1,R1では同等か10秒程度延長した。延長した原因としては評価者R1ではもともとの読影時間が短く,TSB分の読影時間が延長する方向に働いたものと考えられた。

表1 読影時間の結果
評価者 S1 S2 R1 R2
TSBなし* 208±94 241±111 153±50 282±108
TSBあり* 210±83 162±70 167±64 201±65
P値** 0.9048 0.0061 0.04912 0.0140
*読影時間の平均±標準偏差(秒)
**対応のあるt検定によるP値
② 確信度スコア,TSB有用性スコア(表2)
診断の確信度スコアは3名の評価者で統計学的に有意に上昇した。S2では確信度スコアが0.5ほど低下したが,TSBでは正常部位における微細な位置ずれによる偽陽性所見により確信度スコアが低下した。
TSBの有用性は中央値3~4.5であり,有用と判定されたものが多かった。S1に関しては中央値が3であったが,読影に慣れているため,TSBでの有用性が感じにくい状況であったものと考えられた。
確信度スコアの上昇幅やTSB有用性のスコアはレジデントで高く,読影に慣れていない者で有用性がより高いと考えられた。

表2 確信度スコアと有用性スコアの結果
評価者 S1 S2 R1 R2
確信度(TSBなし)* 3(3-4) 3.5(3-4.5) 3.5(3-4) 2(2-3)
確信度(TSBあり)* 4(3-4) 3(3-3) 4(4-5) 4(4-4.5)
P値** 0.0059 0.0234 0.0009 0.0000
TSB有用性* 3(2-3) 3.5(3-4) 4.5(3-5) 4(3-4)
*5段階評価の中央値(四分位数)
**Wilcoxonの符号順位検定によるP値
③ 検出個数の変化
TSBありでのみ検出できた骨転移の個数は3~5個であり,レジデントで多かった。特に骨転移が分かりにくい場所(肩甲骨転移(図5),棘突起転移(図6),肋骨転移,大腿骨転移)がTSBで指摘されており,通常読影で関心があまり払われない部位の転移が検出されていた。棘突起転移の症例では放射線診断専門医ではTSBがなくても指摘できていたが,レジデントではTSBありのみで指摘しており,より読影に慣れていない場合に有用であった。レポートの内容では既存の骨転移を評価する際に,TSBの方が全体の変化が分かりやすく,より適切に評価が行われていた症例があった(図7)。これらは時間が限られた日常業務において,大きな助けとなると考えられる。
一方で,TSBなしで指摘されていたものが,TSBありで指摘されなかった骨転移の個数は個人差があるものの,1~6個であった。上腕骨など位置ずれが大きく,サブトラクションがうまくいかない部位や,骨髄のみの病変で濃度の変化が少なく,サブトラクション画像での色のりが不良な部位で見落としが多い傾向であった。ただし,これらはバージョンアップにより改善できることが期待される。また,最初にTSBを見て転移の有無を判断した場合に見落としが多く,TSBを過信するのは危険であることが判明した。あくまでTSBは補助ツールとして使用するのが適切であると考えられた。
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図5 TSBありでのみ検出できた肩甲骨転移の症例
TSBの3D表示(a)では右肩甲骨に骨転移が指摘できる(↑)。造影CT(b)で右肩甲骨にわずかな骨皮質破壊を伴う転移が同定可能である(↑)。TSBなしではこの骨転移は指摘できなかった。
④ 脊柱管進展の評価
脊柱管進展は6例に存在した。脊柱管進展の指摘個数は評価者のそれぞれでTSBなしで2~6例,TSBありで2~5例であり,TSBありの方で検出数が少ない傾向であった。脊柱管進展はTSBでは処理範囲外となるため検出されず,読影者自身がCT上で確認しなければならない。TSBがあることによって,注意が払われなかった可能性がある(図8)
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図8 脊柱管進展症例
a:TSBのCT表示では骨転移に色のりを認める(←)が,脊柱管内には色のりはない。
b:造影CTでは脊柱管への進展を認める(←)。TSBでは脊柱管進展の評価はできず,読影者自身が評価する必要がある。

まとめ

現状のTSBの良い点・改善点をまとめると以下の通りとなる。
良い点
① 読影者によっては時間が短縮される。
② より自信をもって骨転移の診断ができる。
③ 普段関心があまり払われない部位の骨転移の検出に有用
④ 全体的な転移の変化が把握しやすい。
⑤ 読影に慣れていない者で有用性がより高い。
改善点
① 読影者によっては時間がやや遅延する。
② 位置ずれが大きい部位や色のりが悪い部位(骨髄のみの転移)では検出力が低下する。
③ TSBを過信することは逆に見落としにつながる。また,脊柱管内は解析対象外となっており,脊柱管進展の見落しが懸念される。
改善点のうち,②に関しては上腕骨,肩甲骨,大腿骨といった位置ずれの大きい部位において,それらの骨を個別に抽出し,差分処理をするアルゴリズムが開発されてきており,改善が期待される(図9)。また,転移の色のりが悪かった部位も,差分処理を調整することで,新しいバージョンでは検出可能となることが想定される。③に関しては,脊柱管進展は現状では解析対象外となっているため,脊柱管進展を検出するアプリケーションの開発に期待したい8)
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図9 TSBの改良
a,b:改良前のTSB画像(a)では両側上腕骨や左鎖骨上に,位置ずれによるアーチファクトが発生しているが(↑),改良版(b)では解消されている。また,右恥骨に見られる転移もより明瞭に描出されている(↓)。
c,d:別症例。改良前のTSB画像(c)と比較して,改良版(d)では仙骨の骨転移がより明瞭に描出されている(↓)。

最後に

TSBは,読影者によっては時間を短縮させ,検出が難しい部位において威力を発揮し,特に読影に慣れていない者で有用性が高いことが分かった。一方で,位置ずれの大きい部位や脊柱管進展は見落としが多い傾向にあったが,今後のバージョンアップにより改善が期待される。使用方法によっては読影時間が延長したり,TSBを過信することで見落としの増加につながる点は今後も注意を要すると思われるが,自分に合った使い方を体得することで,効率的に骨転移を検出し,読影業務の軽減につなげることが可能となるであろう。
〈謝辞〉
国立がん研究センター東病院放射線診断科の皆様には,本研究の遂行にあたり多大なご協力頂きました。ここに感謝の意を表します。

*個人の見解が含まれます。
●参考文献
1)Onoue, K., Yakami, M., Nishio, M., et al. : Temporal subtraction CT with nonrigid image registration improves detection of bone metastases by radiologists : Results of a large-scale observer study. Sci. Rep., 11(1): 18422, 2021.
2)Tsuchiya, M., Masui, T., Katayama, M., et al. : Temporal subtraction of low-dose and relatively thick-slice CT images with large deformation diffeomorphic metric mapping and adaptive voxel matching for detection of bone metastases : A STARD-compliant article. Medicine(Baltimore), 99(12): e19538, 2020.
3)Onoue, K., Nishio, M., Yakami, M., et al. : Temporal subtraction of computed tomography images improves detectability of bone metastases by radiology residents. Eur. Radiol., 29(12): 6439-6442, 2019.
4)Onoue, K., Nishio, M., Yakami, M., et al. : CT temporal subtraction improves early detection of bone metastases compared to SPECT. Eur. Radiol. , 29(10): 5673-5681, 2019.
5)Hoshiai, S., Masumoto, T., Hanaoka, S., et al. : Clinical usefulness of temporal subtraction CT in detecting vertebral bone metastases. Eur. J. Radiol., 118 : 175-180, 2019.
6)Ueno, M., Aoki, T., Murakami, S., et al. : CT temporal subtraction method for detection of sclerotic bone metastasis in the thoracolumbar spine. Eur. J. Radiol., 107 : 54-59, 2018.
7)Sakamoto, R., Yakami, M., Fujimoto, K., et al. : Temporal Subtraction of Serial CT Images with Large Deformation Diffeomorphic Metric Mapping in the Identification of Bone Metastases. Radiology, 285(2): 629-639, 2017.
8)中谷文彦, 三宅基隆, 菅谷 潤, 他 :骨・軟部腫瘍診療におけるデジタルトランスフォーメーションとプレシジョン・メディシン 差分画像を用いた転移性脊椎腫瘍の診断支援システムの構築. 日本整形外科学会雑誌, 97(3): S611, 2023.
一般的名称 汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名 汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI- 1 AP
認証番号 302ABBZX00004000