Canon Clinical Report 05
HIT CardioAgent Pro for CIEDs
クラウド基盤を活用して心臓植込み型デバイス(CIED)の遠隔モニタリング業務を効率化
クラウド環境を生かした安全で迅速なデータ連携で遠隔モニタリングにおけるチーム医療を支援
市立伊丹病院
医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)がさまざまなシーンで加速している。不整脈治療に用いる植込み型心臓電気デバイス(cardiac implantable electronic device:CIED)においても、自宅で過ごす患者のデータをネットワークを通じて把握し、早期介入や外来負担を軽減する「遠隔モニタリング」が拡大している。市立伊丹病院では、CIEDの管理にキヤノンメディカルシステムズのペースメーカー統合管理サービス「CardioAgent Pro for CIEDs」を導入し、遠隔モニタリングの診療ワークフローを改善してスタッフの業務負担を軽減した。システム導入の効果について、循環器内科の松浦岳司医長、臨床工学室の北方基一氏、医事課の田中美智代氏に取材した。
2022年9月にCardioAgent Pro for CIEDsが導入されたが、導入経緯を松浦医長は、「長期間経過観察するCIED植込み術では外来数が増える一方で、このままでは管理が破綻しかねないことから、新たなシステムの導入を検討しました」と言う。CardioAgent Pro for CIEDsは、キヤノングループが持つクラウド基盤(Medical Image Place:MIP)とCIED各社の遠隔モニタリングサービスを連携し、デバイスのデータを一元的に収集する(図1)。収集したデータは自動で統合され、リストとして一覧表示される(図2)。リストからPDFのアイコンをクリックすることでCIEDのデータが容易に確認でき、患者ごとに経過を追ってデータを参照することも簡単にできる(図3)。参照にはWebブラウザを使用するため、院内の端末には専用アプリなどをインストールする必要がなく管理の負担も小さいのが特長だ。
図1 CardioAgent Pro for CIEDsのデータフローイメージ
図2 CardioAgent Pro for CIEDsの患者リスト画面
図2 CardioAgent Pro for CIEDsの患者リスト画面
図3 CardioAgent Pro for CIEDsの患者データ管理画面
図3 CardioAgent Pro for CIEDsの患者データ管理画面
導入の決め手の一つとなったのが、同院が求める厳しいセキュリティ環境への対応だ。CardioAgent Pro for CIEDsでは、国内限定のデータセンターを利用し、IPsec-VPN方式での暗号化、3省2ガイドラインへの準拠などセキュアなデータ運用の環境を構築している。しかし、今回の導入では、医療機関でのランサムウェアによる被害が拡大している状況もあり、病院事業管理者をはじめ管理部門から、さらに厳重な対策が求められた。北方氏は、「VPNであっても回線の常時接続は不可、必要な時のみ接続することというのが要件でした。これが可能かどうかが導入の焦点になりました」と言う。これに対してキヤノンメディカルシステムズは、VPNルータの電源をタイマーによって物理的にON・OFFする仕組みを提案。CardioAgent Pro for CIEDsは、MIP上のデータを取得する時だけVPNを接続し、データは院内ネットワーク側のゲートウェイ端末に保存、取得後は接続を物理的にシャットダウンするようにした。北方氏は、「外部との接続は必要最小限にとどめてデータを取得・保存することで、セキュリティの問題をクリアしつつ、院内からはいつでもデータを利用できる環境が構築できました」と評価する。
各社データの一元管理で業務負担を大幅に軽減
CardioAgent Pro for CIEDsの稼働後、それまで1日がかりだった臨床工学技士によるデータ取得の作業は、ほぼゼロになった。北方氏は、「遠隔モニタリングのレポートチェックでは、ログイン、ダウンロード、USBへのコピー、ウイルスチェック、電子カルテ端末へのコピー、CIED記録用紙への記入が必要だった作業は、CardioAgent Pro for CIEDsをチェックするだけで一瞬で終わります。ダウンロード漏れやファイル操作のミスなどのヒューマンエラーがなくなっただけでなく、時間に余裕ができたことでレポート内容の詳細なチェックが可能になるなど、本来の業務に専念できるようになりました」と評価する。医師の診療面では、ブラウザでデータを参照できるため、院内の電子カルテ端末でどこからでもアクセスできるようになった。また、PDFの電子カルテへのコピー、電子カルテの患者画面から当該患者のCardioAgent Pro for CIEDsへの移動などシステム間の連携も強化された。松浦医長は、「アクセスの容易さや、稼働後にもCardioAgent Pro for CIEDsに記載したコメントをPDFに追記できる機能が追加されるなど、遠隔モニタリングの診察の手間は大きく削減されました。診療のしやすさから、患者さんにも大きなメリットがあると思います」と述べる。
医事の請求業務でも、CardioAgent Pro for CIEDsの患者データ管理画面(図3)に対面診療の状況や診療録への記載状況を時系列で表示する欄があり、ここをチェックするだけで終了できるようになった。田中氏は、「遠隔モニタリングの請求は、外来受診時に行われるため会計の精算時の短い時間で対応する必要がありましたが、紙と画面を見比べて突合する必要がなくなり、時間の短縮にもつながっています」とワークフローの変化を評価する。
循環器ソリューションと連携した展開に期待
CardioAgent Pro for CIEDsの導入で、遠隔モニタリングに関するワークフローが大きく改善した同院だが、北方氏は、「今後、デバイスの種類も増えていく中で、より管理しやすいシステムに進化していくことを期待しています」と述べる。キヤノンメディカルシステムズは、循環器領域データ管理ソリューションとして「CardioAgent Pro」を展開しており、これまでに350施設以上での稼働実績を持つ。循環器のデータ管理の実績をベースにして、今後のさらなる飛躍が期待される。(2023年3月10日取材)
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
市立伊丹病院
兵庫県伊丹市昆陽池1-100
TEL 072-777-3773
http://www.hosp.itami.hyogo.jp