Canon Special Report 12

AI技術を用いて開発した頭部単純CTの解析アプリケーションが読影業務をサポート

画像解析を自動化するAbierto Reading Support Solutionが地域中核病院の放射線診療をバックアップ

住友別子病院

愛媛県新居浜市の住友別子病院(病床数360床)は、愛媛県東予地方の中核病院としてがん医療、救急医療など急性期医療を展開する。
同院では、キヤノンメディカルシステムズの読影支援ソリューション「Abierto Reading Support Solution(Abierto RSS)」が稼働する。Artificial Intelligence Imaging第4回では、キヤノンメディカルシステムズのAIソリューションブランド「Altivity」の中から、解析アプリケーション“Hemorrhage analysis”“Ischemia analysis”を中心に、人工知能(AI)技術や自動化技術を活用した診療支援の現状を放射線部部長で放射線IVR科の井石龍比古科長に取材した。

愛媛県東予地域の中核病院として高度急性期医療を提供

住友家発展の礎となった別子銅山の名前を冠し140年近い歴史を持つ同院は、2016年に新病院棟が竣工、透析や老健施設が入る総合棟、DSA棟などの整備を経て2018年にグランドオープンした。がん診療、救急医療、回復期リハビリテーションを3本柱として、東予地域の急性期医療の基幹病院として体制を整えた。救急については、2次救急を担当し年間で2000台以上の救急車を受け入れている。
画像診断機器は、CTが320列ADCT「Aquilion ONE」、80列「Aquilion PRIME」の2台、MRIが3T「Vantage Titan 3T」と1.5T「Vantage Titan」の2台、ほかに血管撮影装置(Alphenixなど)3台、IVR-CT(Aquilion PRIME + Alphenix)、PET-CT(Celesteion)、SPECT、放射線治療装置などで、多くのキヤノンメディカルシステムズの製品が導入されている。診療放射線技師は16名、放射線部に所属する看護師が10名おり、造影検査や核医学検査のルート確保やIVRをサポートしている。検査件数は、2021年度の実績でCT1万5185件、MRI5960件、PET-CT490件、核医学検査345件などとなっている。これらの検査に対応する放射線診断科の医師は現在3名。井石科長は読影業務の現状について、「特に新病院になってからCTをはじめとする画像検査が右肩上がりで増えています。一方で、放射線科医は欠員が出て現在3名の体制です。放射線治療やIVRを含めて対応していますので、読影業務の負担が大きくなっているのが現状です」と述べる。
井石 龍比古 科長

クラウドPACSをいち早く導入して診療をサポート

放射線部では、画像情報システム(PACS)の構築にも早くから取り組んできた。2002年から簡易RISの構築など部内のデジタル化に取り組み、2009年には電子カルテシステムの導入と同時にRISやWeb型PACSを構築しフィルムレス化を進めた。2012年にはクラウド(Healthcare@Cloud)を併用したPACS「RapideyeCore」を導入、クラウドの利用にもいち早く取り組んだ。現在は、全データを院内に持ちクラウド上にはバックアップを管理するスタイルで運用されている。RapideyeCoreは統合型のPACSであり、放射線画像だけでなく超音波、内視鏡、心電図、JPEGなどの汎用画像フォーマットも管理し、院内の電子カルテ端末から参照が可能になっている。井石科長は、「画像データのクラウド保存を含めて、画像管理の運用性と読影業務の効率化をめざしてPACSを構築してきました。増え続ける検査に対して、限られたマンパワーの中でも質の高い放射線診療を提供できる体制になっています」と述べる。

自動解析で読影業務を支援するAbierto RSSを導入

同院では、2021年4月から読影支援ソリューションであるAbierto RSSが先行稼働した。Abierto RSSでは、さまざまな領域の解析アプリケーションを利用できる。脳神経領域(for Neuro)としてHemorrhage analysis、Ischemia analysis、“Brain Perfusion”、“Brain Vessel Occlusion”がラインアップされている。また、腫瘍領域(for Oncology)として“Temporal Subtraction For Bone”を搭載するほか、サードパーティ製のアプリケーションも利用できる。同院では、現在、Hemorrhage analysis、Ischemia analysis とTemporal Subtraction For Boneを臨床で活用している。このうちHemorrhage analysisとIschemia analysisが、キヤノンメディカルシステムズのAI技術を用いて開発されている。
Abierto RSSでは、これらのアプリケーションでの画像処理や解析を含めて“Automation Platform”で自動化することができるのが特徴だ。例えば、頭部の単純CTを撮影するとオーダ内容などから“HEAD”がタグづけされ、Automation Platformへ自動で転送されアプリケーションによる解析が行われる。Temporal Subtraction For Boneの場合は、必要な条件に合った過去画像をPACSから取得して読み込み、解析を行うところまで自動化される。これらの解析処理の状況は“Worklist”で確認できる。Worklistでは、解析結果の有無を含めて一覧で表示され、何らかの所見があった症例には“!”マークが表示される。マークをクリックすると“Findings Workflow”が起動し、解析アプリケーションごとの専用ビューワで結果が参照できる。

解析アプリケーションが読影業務を支援

Hemorrhage analysisは、単純CT画像からCT値および画素値が高い領域(出血領域に相当)を抽出し色づけで強調表示する。Ischemia analysisは、同様に低吸収領域を抽出して強調画像を作成・表示する。さらにASPECTS(Alberta Stroke Program Early CT Score)に沿った領域を表示して虚血性変化の把握をサポートする。実際の運用では、最初にHemorrhage analysisで解析し、異常がなければ続いてIschemia analysisの解析を行う。Ischemia analysisについては、現在はAdvancedモードとして、中大脳動脈(MCA)領域を中心に再度解析を行うことで特異度を上げるようになっている。井石科長は読影支援ソリューションについて、「読影の際の見落としを防ぐ意味で、Abierto RSSによる解析は安心感につながっています。検査の件数だけでなく画像数も増える中で、解析結果をダブルチェック的に使えることは心理的な負担の軽減にもつながります」と述べる。
CT検査室ではFindings Workflowを参照できる環境を構築
同院の救急医療は、全診療科の医師が当直し、各診療科の医師がオンコールで待機する体制をとる。CTの検査室にはFindings Workflowを参照できる端末が設置されており、緊急の脳卒中症例の際には解析結果を確認できるようになっている。井石科長は、「専門外の医師が当直の場合がありますので、専門医につなぐための迅速な判断をサポートすることが期待できます」と言う。
CT検査室ではFindings Workflowを参照できる環境を構築

経時差分で骨転移を強調表示するTemporal Subtraction For Bone

Temporal Subtraction For Boneは、骨強調処理や過去画像とのサブトラクションによって、骨領域の経時変化を強調表示する。非線形位置合わせにLDDMM(large deformation diffeomorphic metric mapping)法や適応的差分処理技術である“Adaptive Voxel Matching”などを用いた精度の高い処理で読影をサポートする。井石科長は、「担がん患者のフォローアップ CTは読影の件数が多く、骨転移の検索は読影医にとっても負担の大きい作業です。Temporal Subtraction For Boneでは、3Dフュージョン画像でCT値の変化がある場所が表示されるので読影時間の短縮にもつながっています」と評価する。

AI技術を用いて開発したアプリケーションが臨床現場を支援

井石科長はHemorrhage analysisとIschemia analysisについては、「Advancedモードで検出精度は上がっていますが、感度・特異度ともにもう少し向上することを期待しています」と言う。Abierto RSSでは、アプリケーションをクラウドからダウンロードして利用できるのが特徴で、診療に必要なものを選択できる。同院では、現在はBrain Perfusionは使用していないが井石科長は、「今後、救急での脳梗塞や血管障害の診療の中で使えるように、診療科とも検討していきたいですね」と期待する。
キヤノンメディカルシステムズのAlソリューションブランド「Altivity」への期待について井石科長は、「各社がAI技術を使った読影や診断支援のソフトウエアに力を入れていますが、多くのモダリティを持つ強みを生かして幅広い領域でラインアップが充実することに期待しています」と述べる。
地域の最前線でフル回転する医療現場でのAIを用いて開発された技術の活用から、さまざまなメリットが生まれていくに違いない。
(2022年10月27日取材)

本ページは月刊インナービジョン2022年12月号に掲載されたものです。
*AI技術は設計段階で用いており、自己学習機能を有しません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人の意見や感想が含まれる場合があります。

住友別子病院
愛媛県新居浜市王子町3-1
TEL 0897-37-7111
https://sbh.gr.jp
一般的名称 汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名 汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI-1AP
認証番号 302ABBZX00004000