特別寄稿

Abierto Reading Support Solutionにおける脳動脈瘤候補検出アプリケーション(EIRL aneurysm)の使用経験

桐生 茂 先生(国際医療福祉大学医学部 放射線医学講座)

人工知能(AI)を用いたコンピュータ支援診断(CAD)はDeep learning登場前と比較してパフォーマンスが高く、日常臨床で用いられ始めている。救急症例の対応のためにもCADは一連の読影のフローにシームレスに組み込まれていることが重要である。本稿では読影医師に負担がなくAIの解析結果を読影に活用可能なCADシステムおよび脳動脈瘤候補検出アプリケーションの使用経験について報告する。

はじめに

Deep learningの登場による放射線科医学における人工知能(AI)に関わる研究が急速に進行している1、2)。Deep learning以前の機械学習に比較して画像特徴を明示的に与える必要がない、処理時間が短いなどに加え、パフォーマンスがより高いという特徴がある3)
臨床においても米国の食品医薬品局や欧州医薬品庁また国内であれば医薬品医療機器総合機構などにより認可をうけたAIを用いた商用のコンピュータ支援診断(CAD)が使用され始めており、実臨床において用いられている施設が増えている。
論文化されることが前提の研究ではリソースの制限などにより限られた条件で遂行されるものが多く、デザインによっては限られた施設のデータのみで評価を行うものも多くある。その一方、商用のCADはさまざまな環境で取得された医療画像において安定した性能が求められるため、データ取得環境のバイアスの影響が少ないアルゴリズムが必要である。
AIは病変の検出、予後予測、治療法の決定、さらに人間には行うことが難しい診断などさまざまな役割が期待されているが4~6)、現段階の臨床で有用と考えられる機能は大量の画像より効率よく病変を検出することであると考える。これは読影者の負担の軽減につながる。
このたびキヤノンメディカルシステムズ株式会社のAbierto Reading Support Solution(以下Abierto RSS)で提供されている脳動脈瘤候補検出アプリケーションEIRL aneurysmについて評価を行う機会があり、本稿ではこれについて紹介をする。

Abierto Reading Support Solutionの概要

CADを効率よく臨床で用いるためには一連の読影のフローにシームレスに組み込まれていることが重要である。システムによってはPACSよりワークステーションに手動で画像を送り、ワークステーションでの解析結果を再びPACSに送り返すものもあるが、これでは救急症例の対応において問題があり、また大量の読影業務と並列に行うのも困難である。
Abierto RSSは各モダリティよりサーバであるAutomation Platformに画像が自動送信される。サーバを介して各アプリケーションが自動的に解析を行い、結果をPACSに送る。アプリケーションはクラウドから最新バージョンをダウンロードして利用できる(図1)。これにより放射線科医は読影の際にはすでにアプリケーションによる解析結果が参照可能であるため、日常業務に負担なく診断に活用できる。
現時点でAbierto RSSには主に中枢神経領域として脳動脈瘤候補の検出(EIRL aneurysm)、出血領域の把握(Hemorrhage Analysis)(図2)、脳内の虚血領域を把握(Ischemia Analysis)(図3)、脳内の血管途絶領域の把握(Brain Vessel Occlu- sion)、造影CTパーフュージョンを用いた脳内の灌流に関する情報の把握(Brain Perfusion)、また骨の経時変化の観察(Temporal Subtraction For Bone)などのアプリケーションが用意されている。さらにAbierto RSSはオープンプラットフォームであり、他社のアプリケーションの搭載も可能で、将来的な発展性が担保されている。

EIRL aneurysmの概要と使用経験

EIRL aneurysmはエルピクセル社により開発されたアプリケーションであり、詳細についてはUedaらにより報告されている7)。複数の施設のTOF MRAの原画像を用いて学習が行われており、ResNet-18を基本としたアルゴリズムが用いられている。このアルゴリズムでは脳動脈曲率より動脈瘤を含んだ多数の動脈異常を検出、その中で特に動脈の瘤状の変形に類似した候補点を検出するために教師データを用いて学習が行われた。Abierto RSS上でのEIRL aneurysmのインタフェイス開発に本学も関わり、通常のビューアとほぼ同等のオペレータにストレスが少ない仕様となっている。
具体的な操作方法は動脈瘤の候補が4つまで表示され、読影者が真の動脈瘤であるか判定を行う(図4)。動脈瘤の大きさは2mm以上を対象としている。それぞれの候補について軸位断、環状断、矢状断の表示がされ、拡大・縮小および上下の画像の確認が容易に行え、簡便に動脈瘤であるか否か判定が行える(図5)。アルゴリズムの学習において脳動脈曲率を採用していることもあり、候補から除外されるものは脈管の屈曲部であったり、分岐部であったり曲率が大きく変わる箇所が多いようである。また、日常臨床において内頸動脈・後交通動脈分岐において頻度が高い漏斗状拡張か動脈瘤か迷うような症例も候補としてあげられるので、最終的な診断は読影者の判断による(図6)。われわれの検討では動脈瘤毎の感度は約90%以上で、読影支援として信頼できる診断能が観測された。陽性的中率は約50%程度ではあるが、特にスクリーニングで動脈瘤の見落としを防ぐのには有用なアプリケーションであると考えている。

おわりに

2022年度診療報酬改定においてAIの適切な管理が行える施設において画像管理加算3の点数を300点から340点に引き上げられることになった。これは厚生労働省の画像診断支援におけるAI開発の加速にむけた構想に基づいており、今後臨床においてAIを用いた画像診断支援システムがより活用される方向にあると考えられる。本稿ではAbierto RSSで動作するEIRL aneurysmが、高い感度を備えた安定した性能を示すことができるシステムであることを紹介した。MRAはMIP画像のみではなく、大量の原画像についても確認を行う必要がある。大量の画像から病気をさがす行為そのものは苦手ではない画像診断医が多いが、AIにより病変検出の負担が軽減することにより、質の高い診断報告書につながると考える。
参考文献
1) Ramesh AN et al: Artificial intelligence in medicine. Ann R Coll Surg Engl 86(5): 334-338, 2004
2) Kaul V et al: History of artificial intelligence in medicine. Gastrointest Endosc 92(4): 807-812, 2020
3) Chan HP et al: Computer-aided diagnosis in the era of deep learning. Med Phys 47(5): e218-e227, 2020
4) Chartrand G et al: Deep Learning: A Primer for Radiologists. Radiographics 37(7): 2113-2131, 2017
5) Yasaka K et al: Deep learning with convolutional neural network in radiology. Jpn J Radiol 36(4): 257-272, 2018
6) Lundervold AS et al: An overview of deep learning in medical imaging focusing on MRI. Z Med Phys 29(2): 102-127, 2019
7) Ueda D et al: Deep Learning for MR Angiography: Automated Detection of Cerebral Aneurysms. Radiology 290(1): 187-194, 2019

本ページは映像情報メディカル2022年9月号に掲載されたものです。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人の意見や感想が含まれる場合があります。
*設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有していません。

一般的名称 汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名 汎用画像診断ワークステーション用プログラムAbierto SCAI-1AP
認証番号 302ABBZX00004000
一般的名称 MR装置ワークステーション用プログラム
販売名 医用画像解析ソフトウェアEIRL aneurysm
承認番号 30100BZX00142000