Canon Clinical Report 10

80列CTの導入でスタートした冠動脈CT検査が地域での循環器医療に貢献

高画質・低被ばく検査で冠動脈を評価し迅速な診断・治療につなげて地域の健康寿命延伸を支援

龍野中央病院

兵庫県たつの市の龍野中央病院は、1950年の開院以来、内科を中心に整形外科や眼科、耳鼻咽喉科などで、急性期から慢性期、訪問看護や介護まで地域密着型の医療を提供している。同院では、2022年12月に他社製16列CTを更新して、キヤノンメディカルシステムズの80列CT「Aquilion Serve」を導入し、新たに冠動脈CT検査をスタートした。地域における循環器医療を支える同院での80列CTの運用について、井上喜通理事長・院長(以下、理事長)をはじめ循環器内科の藤井隆部長、循環器内科で血管造影室室長兼救急部部長の井上通彦医師と放射線科の村上和司部長に取材した。

内科を中心に地域密着型の医療を展開

たつの市は兵庫県南西部に位置し、揖保川に沿って南北に広がる。同院はJR姫新線本竜野駅に近く市のほぼ中央に位置する。1950年に開院し、1955年に井上病院となり、1979年龍野中央病院と改称、1990年医療法人社団緑風会を設立、1996年には現在地に新築移転した。井上理事長は同院の地域での役割を、「地域の医療ニーズに合わせて病院の規模や体制、診療機能を見直しながら、一貫して地域密着型の医療を行ってきました。現在は、内科を中心に心臓や血管系の循環器疾患、糖尿病など生活習慣病の管理、消化管疾患を対象に診療を行っています」と説明する。病床数は99床、一般病床39床(うち地域包括ケア病床12床)、療養病床60床(うち介護病床8床)で、併設する介護施設と連携して訪問看護や介護などを提供する。理事長は、「地域の高齢化もあり、回復期から慢性期まで安心して療養できるように医療だけでなく介護も含めて充実させています」と述べる。
一方で循環器内科では、専門医2名が常勤し、虚血性心疾患に対する心臓カテーテル検査・治療が可能な診療体制を整えている。その理由を理事長は、「たつの市や相生市、北の宍粟市を含めた播磨姫路圏域は医療過疎の地域でもあります。特に循環器医療に関しては対応する医療機関がなく、その空白を埋める意味も含めて体制を整えました。病院はライフラインであり、地域に必要とされる医療を継続的に提供することが必要だと考えてのことです」と言う。
井上喜通 理事長・院長

循環器内科専門医2名で心臓カテ検査・治療を実施

循環器内科は、藤井部長と井上通彦医師の2名の常勤循環器内科専門医と非常勤医師2名の4名体制となっている。通彦医師は循環器内科の診療について、「たつの市内では唯一、循環器内科の専門医が常勤し、心臓カテーテル検査・治療まで含めた専門的な医療を提供できる病院です。高齢者の多くが心不全を患っており、それに伴って筋力が落ちてサルコペニアになる患者さんが多くいます。当院では、そうなる前にできるだけ健康な状態を維持し、健康寿命を延ばすことを目的に、心臓の状態を把握して症状の改善を図ると同時に、骨や筋力を維持するための心臓リハビリテーションにも取り組んでいます」と説明する。
循環器内科・藤井隆 部長
同院には、糖尿病専門医2名が在籍し、糖尿病内科には高血圧、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病患者が多く受診する。藤井部長は心不全への対応について、「糖尿病内科には基礎疾患を持つ患者が多く受診されていますが、地域住民の高齢化に伴い、生活習慣病を基礎に持つ狭心症や、心筋梗塞などの虚血性心疾患や心不全患者が近年急増しています。虚血性心疾患や心不全、大血管や末梢動脈疾患などに対して、できるだけ迅速に診断して適切な治療を行うようにしています」と述べる。
血管造影室長・井上通彦 医師

冠動脈CT検査のためAquilion Serve導入

同院では、Aquilion Serveを導入して2023年2月から冠動脈CT検査をスタートした。理事長は80列CT導入のねらいについて、「たつの市内には冠動脈CT検査を行う施設がなく、より詳細な検査のためには姫路市内の病院に紹介する必要がありました。患者さんの負担を軽減し、より速く正確な診断を行い、患者さんに的確な処置を行うために冠動脈CT検査が可能なCTの導入を進めました」と述べる。
他社製16列CTの更新がきっかけだったが、冠動脈CT検査が可能な装置として機種選定を行い、Aquilion Serveが選定された。藤井部長は、「以前の所属先でキヤノンメディカルシステムズの装置で冠動脈CT検査を経験しており、冠動脈の描出能の高さは評価していました。不整脈や高心拍患者への対応など冠動脈CT検査のための機能や、画質、操作性などをトータルに判断して選定しました」と言う。虚血性心疾患に対する冠動脈CT検査の位置づけについて藤井部長は、「80列CT導入以前は、胸痛などの症状や運動負荷心電図の所見を基に冠動脈造影検査の適応を判断していました。しかし、運動負荷心電図は検出率が低く、冠動脈造影検査が無駄になったり、診断までに時間がかかったりということがありました。冠動脈CT検査は、心エコー検査で原因診断のつかない心不全患者や糖尿病や高血圧などの動脈硬化の多重リスク患者に行い、その所見を基に冠動脈造影検査を行うことで、心筋虚血が速やかに診断でき治療につながるようになりました」と述べる。

Aquilion Serveによる臨床画像

症例1 冠動脈CT:糖尿病、高血圧、脂質異常症で通院中の患者が、最近息切れが生じ心臓超音波検査、冠動脈CT検査を行った。CTで冠動脈の高度狭窄を確認し、迅速に冠動脈造影検査、経皮的冠動脈形成術(PCI)を行えた。
症例1 冠動脈CT:糖尿病、高血圧、脂質異常症で通院中の患者が、最近息切れが生じ心臓超音波検査、冠動脈CT検査を行った。CTで冠動脈の高度狭窄を確認し、迅速に冠動脈造影検査、経皮的冠動脈形成術(PCI)を行えた。
症例2 下肢動脈造影(SEMAR適用):腎機能低下(eGFR 40mL/min/1.73㎡)のため、造影剤低減プロトコール(2割低減)にて撮影。人工股関節による金属アーチファクトをSEMARにて効果的に低減。

高画質・低被ばくで冠動脈CT検査をスタート

Aquilion Serveは、ディープラーニングを用いて設計された画像再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engineintegrated(AiCE-i)」による高画質・低被ばく検査と、「INSTINX」と呼ばれる自動化技術でワークフローを支援する80列CTである。冠動脈CT検査は、毎週水曜日の13時半から午後の外来が始まる15時までに3枠が設定されている。検査に当たっては藤井部長のほか、看護師、診療放射線技師が立ち会い、造影剤のルート確保やβ遮断薬の投与などの前処置から検査終了までを行う。冠動脈の解析には、医用画像処理ワークステーション「AZE VirtualPlace」を使用している。冠動脈CT検査の運用に関してはゼロからのスタートだったが、特にトラブルもなく順調に立ち上がった。これまで150件を施行しているが村上放射線科部長は、「撮影プロトコールや検査フローを含めて、キヤノンメディカルシステムズのサポートもあり、スムーズに立ち上げることができました」と述べる。同院の冠動脈CT検査は、1回の造影剤投与で冠動脈のみ、冠動脈+大動脈、冠動脈+下肢動脈の造影検査を行っている。藤井部長は、「これらは患者さんの症状や病態によって選択しています。糖尿病患者では、虚血性心疾患と末梢動脈疾患の合併はしばしばあり、間欠性跛行患者に冠動脈病変が見つかることもあります」と述べる。
放射線科・村上和司 部長
Aquilion Serveについて藤井部長は、「撮影時間が短く、長い息止めが難しい高齢者でも検査が可能です。また、心房細動の患者でも心拍をコントロールすることで診断が可能な画像が得られています」と評価する。通彦医師は、「Aquilion Serveでは、冠動脈が明瞭に描出され評価がしやすくなりました。患者さんへの説明も画像を提示することで狭窄や閉塞の有無が一目でわかり、理解を得やすくなりました。これによって患者側の負担も医師の負担も軽減されており、大きなメリットを感じています」と述べる。冠動脈造影検査の実施件数は冠動脈CT導入以前より増えている。藤井部長は、「この地域にはまだ潜在的な動脈硬化性の心不全患者が多く、CTによってそれらを的確に拾い上げることができているからだと思います」と言う。

AiCE-iやSEMARを活用した心臓検査を実施

Aquilion Serveの導入後、CT検査は月間約160件と以前に比べて1割程度増加している。村上放射線科部長は、「画質の向上と低被ばくで検査が可能になったことで、依頼件数が増加しています」と言う。Aquilion ServeではAiCE-iによって被ばく線量が低減されており、冠動脈や胸部でDRLs2020の半分、腹部や胸腹部では1~2割減で検査を行っている。また、下肢動脈造影検査では、撮影スピードの向上によって広範囲を短時間で撮影できることから、造影剤量を従来の2~3割程度削減できた。さらにAquilion Serveでは、金属アーチファクト低減技術の「SEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)」も利用できる。SEMARの運用について村上放射線科部長は、「人工骨頭のアーチファクトが除去されて下肢動脈が明瞭に描出され、診断が可能な画像が提供できています」と述べる。
また、Aquilion Serveは5MHUのX線管球を搭載している。管球容量に関して村上放射線科部長は、「冠動脈CT検査は検査枠の関係で短い時間に連続して検査を行っていますが、これまで管球の熱による検査待ちは経験していません。AiCE-iによって管電流を上げなくても画質が維持でき、体格のよい大柄な患者さんでも無理なく検査が可能です」と述べる。
井上理事長は、CTへの今後の期待について、「心臓の疾患への早期の介入は心臓疾患だけでなく、そのほかの疾患やサルコペニアの予防にもつながり、地域の健康寿命の向上に貢献できるのではと期待しています」と述べる。通彦医師は、「当院の冠動脈CT検査を地域でも活用してもらえるようにしていきたい」と言う。藤井部長は、「CT装置を有効活用することで、この地域の循環器疾患の診療に貢献していきたいですね」と展望する。Aquilion Serveの機能を生かした冠動脈CT検査が、地域の循環器診療を支えていく。
(2023年9月1日取材)

※AiCE-iは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

医療法人社団緑風会
龍野中央病院
兵庫県たつの市龍野町島田667
TEL 0791-62-1301
http://www.tatsunocentral-hospital.jp/
一般的名称 全身用X線CT診断装置
販売名 CTスキャナ Aquilion Serve TSX-307A
認証番号 304ACBZX00001000