COVID-19感染防止対策用に80列CTを救急外来に増設

患者動線の最適化による感染防止対策と、ワークフロー向上による強固な診療体制構築

宇都宮記念病院

社会医療法人中山会 宇都宮記念病院は、2008年に宇都宮市中心部に新病院を開院し、2次救急医療機関として地域医療に貢献している。2020年5月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策のため、救急外来エリアにキヤノンメディカルシステムズの80列CT「Aquilion Lightning/Helios Edition」を増設した。感染疑いのある発熱患者と通常診療のゾーニングにより院内感染リスクを低減している同院の取り組みについて、﨑尾秀彰理事長・院長と鈴木金哉事務局長、放射線科の三品祐樹技師長、黒澤孝史技師に取材した。

救急医療体制を強化し県内屈指の救急医療機関に成長

1963年開設の宇都宮記念病院は2008年、宇都宮市中心部の大通りに面した現在地に新病院を開院。併設する総合健診センターも含めて設備やスタッフを充実させ、人間ドック・健康診断から診療、治療までを一貫して提供している。
﨑尾院長は獨協医科大学病院で救命救急センター長を勤め上げた後、2009年4月に宇都宮記念病院に入職。課題であった救急医療の強化に直ちに着手し、同年6月には輪番制の2次救急医療機関の指定を受けた。
それから10年経過した現在、年間約4000台の救急車を受け入れる県内屈指の救急医療機関へと成長した。新病院には、320列ADCT「Aquilion ONE」と64列CT「Aquilion 64」、MRI2台(すべてキヤノンメディカルシステムズ社製)が整備され、特に脳神経外科領域の救急については、24時間365日体制で対応している。

COVID-19対策のため救急外来へのCT増設を決定

2020年初めから世界中で感染が拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、医療現場に大きな影響を与えている。同院でも、病院入口でのサーモグラフィによる体温チェック、手指消毒や問診、面会制限などの水際対策を実施。通常の診療を堅持するために、“COVID-19を院内に入れない”ための対策を講じた。慢性期や初診の外来患者は減少したが、救急搬送件数には大きな変化はなく、COVID-19感染拡大下でも通常の受け入れを続けた。
同院では発熱患者来院時の対策として、1階救急外来の救急車専用入り口のスペースに医療用テントとプレハブ隔離室4室を設置し、院内には入れずに診察が行える設備を整えた。感染が疑われPCR検査を保健所に依頼した際に、自宅待機できない患者は結果が出るまで隔離室で待機する。重篤な患者用に人工呼吸器管理が可能な陰圧室の新設も決め、院内感染の防止に努めた。
しかし、このような感染疑い患者を診断するためには胸部CTが有用であり、検査をする場合には、放射線科のある3階まで移動する必要があった。当然ながら、ほかの患者との接触を避け、動線を短くするなどの対策はとっていたが、感染の可能性がある患者が院内を移動することはリスクとなる。そこで同院は、1階の救急外来へのCT増設を緊急決定した。
増設を決めた理由について、﨑尾院長は、「院内でクラスターが発生すれば、救急だけでなく病院機能の停止など、CT装置1台の費用どころではない損害が生じてしまいます。実際に院内感染が発生したというニュースを聞き、CT室までの患者動線を短くして感染リスク低減を図るため、すぐにCT増設を決断しました」と話す。

80列CTの導入決定から1か月で稼働開始

4月14日の臨時理事会でCT増設の方針を決定後、既設CTのベンダーであるキヤノンメディカルシステムズに相談し、5月13日の稼働開始を前提に導入作業が始まった。鈴木事務局長は、「これまでも臨機応変に装置を導入したことはありましたが、今回の決定は非常に迅速でした。感染防止対策のための導入でしたが、救急医療の設備として長期的に利用できることから、減価償却は十分に可能と判断しました」と振り返る。
救急外来の一角を改修して新設するCT室はスペースが限られるため、コンパクトな「Aquilion Lightning/Helios Edition」が採用された。三品技師長は、「新設のCT室は狭いため装置は小型であることが必須で、80列CTでありながらコンパクトな設計のAquilion Lightning/Helios Editionであれば設置が可能でした。また、稼働開始まで時間がないことから、技師が操作に慣れているキヤノンメディカルシステムズのCTという点も重要でした」と選定の理由を述べる。
改修・新設工事が急ピッチに進められ、5月9日にCTを搬入、予定通り5月13日の稼働にこぎつけた。

ゾーニングとしてのCT増設のメリット

同院3階にある放射線科には14名の診療放射線技師が所属し、このうち5名ほどがCTを担当している。救急外来でCTが稼働してからは、CT担当技師1名がオンコールで対応し、オーダが入ると1階に降りて検査を行っている。COVID-19感染の可能性がある患者への検査対応について、黒澤技師は、「隔離室に入った患者さんに対しては、隔離室内でポータブルX線装置を用いて胸部撮影を行い、その後、必要に応じてCTを撮影します。救急外来のCTでは通常の救急患者の検査もあるため、感染疑い検査後の消毒はもちろん、立て続けに検査を行う時には感染疑い患者の検査を最後にするなどの工夫をしています」と説明する。
感染防止のため、Aquilion Lightning/Helios Editionの寝台にはビニールシートを敷き、患者の上にもシートを被せて、その上からベルトを使用する。担当技師は、キャップやフェイスガード、エプロン、手袋で防護し、検査終了後は寝台やガントリの消毒、室内で感染ゴミの処理を行うなどの感染防止対策を徹底している。三品技師長は、「感染疑いの検査は、感染防止対策で手間と時間がかかります。救急外来へのCT増設は、3階での通常検査をスムーズに行うためにも有意義だと思います」と述べる。
6月中旬までに同院では、COVID-19感染疑いの患者を約60名診療したが、幸いにも陽性者は出ていない。﨑尾院長は、「COVID-19では肺の末梢に淡いすりガラス陰影が見られると言われており、感度の高い胸部CTは非常に有用です。ゾーンを分けて最短の動線でCT検査が可能になり、院内感染リスクを最小化できています」と、CT増設がCOVID-19対策として有効に機能していると話す。

迅速な検査・診断が可能な環境が救急医療に大いに貢献

Aquilion Lightning/Helios Editionは、稼働後1か月強で約400件の検査を実施した。導入のきっかけはCOVID-19感染防止対策であったが、救急診療で大いに活用されている。コンソールは2面構成とし、撮影と画像処理を並行して行えることで、迅速な診断・治療に貢献している。﨑尾院長は、「以前は、撮影オーダを出して3階に患者さんを送った後、画像が出るのを今か今かと待っていましたが、現在はタイムラグなく診断、治療を行えるようになり非常に役立っています」と述べる。
78cmのワイドボアや高速な画像再構成など、Aquilion Lightning/Helios Edition は救急医療に有用なスペックを備えている。黒澤技師は、「再構成スピードが速いですし、ヘリカル撮影で金属アーチファクト低減技術“SEMAR”を使用できる点も、救急においては非常に有用です」と話す。
また、CT導入時にPDIディスク発行システムも導入し、撮影から診断、ディスク発行までを救急外来で完結できるようになった。﨑尾院長は、「1階と3階の間を移動する時間のロスがなくなり、大動脈解離など他院への転送が必要な場合にも、より迅速な対応が可能になりました。また、その場で技師とともに画像を確認できるため、外傷で予想していなかった部位に生じた骨折などの見落としのリスクも低減しているのではないでしょうか。救急検査に加え、3階のCTのバックアップや警察依頼のAi(死亡時画像診断)の動線の最適化など、増設のメリットを大いに感じており、救急外来にCTを入れて良かったと思います」と述べ、COVID-19対策を除外して考えても、救急外来へのCT増設は有効な投資であったと評価している。

循環器領域など救急体制のさらなる充実で地域医療を支える

栃木県は脳血管疾患と心疾患による死亡率が高いことから、同院では循環器についても救急体制の強化をめざしている。﨑尾院長は、「2次救急で救急外来にCTを入れている病院は少ないと思いますが、今回、感染防止対策をきっかけに導入した結果、非常に有効活用できると実感しています。救急体制をいっそう強化して断らない救急を実践し、患者さんの救命と社会復帰に貢献することが当院の使命だと考えています」と話す。
今後、COVID-19対策としてCT導入を検討する医療機関にとっては、同院の取り組みが一つのモデルケースとなるだろう。

(2020年6月18日取材)

社会医療法人中山会
宇都宮記念病院
栃木県宇都宮市大通り1-3-16
TEL 028-622-1991
http://www.nakayamakai.com
本ページは月刊インナービジョン2020年8月号に掲載されたものです。
一般的名称 全身用X線CT診断装置
販売名 CTスキャナ Aquilion Lightning TSX-036A
認証番号 228ABBZX00118000